第七話 新しい婚約者
聖女召喚から数週間。
ミレイユ・ヴェルディエは王城に来ていた。
今日は、新しい婚約者と会う日だ。
第四王子。
ルシアン・ヴァルセリオン。
ミレイユは鏡の前に座っていた。
侍女が髪を整えている。
若草色の髪。
今日は結い上げず、肩に下ろしていた。
「そのくらいでいいわ」
ミレイユは言った。
侍女が少し困った顔をする。
「本当によろしいのですか?」
「ええ」
ミレイユは微笑んだ。
「今日は少し幼く見える方がいいでしょう?」
六歳差。
相手はまだ十二歳。
自分は十八歳。
いくらなんでも差がある。
侍女は小さく笑った。
「それでも、六歳若くは見えませんよ」
ミレイユも苦笑した。
「そうでしょうね」
化粧も、今日は少し軽い。
それでも、十二歳の王子から見れば十分大人だろう。
(大丈夫かしら)
ミレイユは少しだけ考えた。
この婚約は王命だ。
自分も断れないし、ルシアンも断れない。
王族と公爵家。
それがどういう意味を持つか、ミレイユはよく知っている。
けれど。
弟のジュリアンから聞いた話が頭をよぎる。
『ルシアン殿下は歴史オタクです』
ジュリアンは真面目な顔でそう言った。
『王城の書庫に入り浸っています』
ミレイユは思わず笑ってしまった。
それなら。
会話の準備はできている。
歴史の話なら、ミレイユも嫌いではない。
「お嬢様」
侍女が声をかける。
「お時間です」
ミレイユは立ち上がった。
王城の応接室。
そこにルシアンが待っている。
扉の前に立つ。
侍従が扉を開いた。
「ミレイユ・ヴェルディエ様」
部屋に入る。
そこにいたのは、小柄な少年だった。
黒髪。
紫の瞳。
アルヴェリア王家の特徴。
そして。
ガチガチに緊張していた。
背筋はまっすぐ。
だが。
顔が真っ赤だった。
ミレイユはゆっくり歩み寄る。
ルシアンは目を合わせない。
完全に固まっている。
ミレイユは軽く礼をした。
「お初にお目にかかります
ミレイユ・ヴェルディエでございます」
ルシアンの肩がぴくっと動いた。
「……ルシアン・ヴァルセリオンです」
声が少し硬い。
ミレイユは微笑んだ。
「本日から婚約者となりますね」
ルシアンはうなずいた。
しかし。
目が合わない。
そして。
耳まで赤い。
ミレイユは少し困った。
(どうしましょう)
沈黙が落ちる。
そこでミレイユは言った。
「ジュリアンから聞きました」
ルシアンが少しだけ顔を上げる。
「殿下は歴史がお好きだとか」
その瞬間。
ルシアンの目が開いた。
そして初めて、ミレイユを見た。
「……はい」
短い返事。
でも。
さっきより声が少しだけ普通だった。
ミレイユは優しく言った。
「実は私も、歴史の本を読むのが好きなのです」
ルシアンは完全に固まった。
そして。
また耳まで赤くなった。




