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第五話 聖女の部屋



王宮の廊下はどこまでも広かった。


小鳥遊美咲は侍女たちに囲まれて歩いていた。


白い服の女性たちが前後に並び、護衛の騎士までついている。


 


美咲は落ち着かなかった。


 


(なんなのこれ……)


 


豪華な廊下。


高い天井。


磨かれた石の床。


 


完全に外国。


それも、テーマパークみたいな場所だ。


 


やがて侍女たちが大きな扉の前で止まった。


 


一人の侍女が扉を開く。


 


「こちらでございます」


 


美咲は部屋の中を見て、言葉を失った。


 


広い。


 


いや、広すぎる。


 


柔らかそうな絨毯。


天蓋付きの巨大なベッド。


大きな窓。


豪華な家具。


 


映画の王女様の部屋みたいだった。


 


侍女が丁寧に言う。


 


「ここが聖女様のお部屋です」


 


美咲は思わず聞き返した。


 


「……聖女?」


 


侍女たちは微笑んだ。


 


「はい」


 


その瞬間。


 


別の侍女が声を上げる。


 


「あら


 


 お召し物が濡れております」


 


美咲は自分の制服を見下ろした。


 


さっきの水柱のせいで、確かにびしょびしょだった。


 


次の瞬間。


 


「失礼いたします」


 


侍女たちが動いた。


 


「ちょっ


 


 待って」


 


しかし止まらない。


 


「すぐにお着替えを」


 


「あの」


 


「寒いでしょう」


 


「あの!」


 


あれよあれよという間に制服を脱がされる。


 


「ちょっと!」


 


「落ち着いてくださいませ」


 


侍女たちは手際が良かった。


 


髪を拭かれ。


体を拭かれ。


 


気づいた時には、柔らかい白い服を着せられていた。


 


美咲は呆然と立っていた。


 


(なにこれ……)


 


完全に流れ作業だった。


 


その時。


 


扉がノックされた。


 


侍女たちが一斉に振り向く。


 


「王太子殿下」


 


扉が開く。


 


先ほどの青年が入ってきた。


 


黒髪。


紫の瞳。


 


落ち着いた顔。


 


侍女たちが頭を下げる。


 


「殿下」


 


王太子は軽く頷いた。


 


「少し席を外してくれ」


 


侍女たちは静かに部屋を出ていった。


 


部屋には二人だけが残る。


 


しばらく沈黙が流れた。


 


美咲が先に言った。


 


「帰りたいんですけど」


 


王太子は静かに聞いている。


 


美咲は続ける。


 


「さっきの場所


 


 意味わかんないし


 


 ここどこなんですか」


 


王太子は落ち着いた声で答えた。


 


「アルヴェリア王国だ」


 


美咲は眉をひそめる。


 


「どこそれ」


 


王太子は少しだけ沈黙した。


 


そして言う。


 


「あなたの世界ではない」


 


美咲の頭が真っ白になった。


 


「……は?」


 


王太子は続ける。


 


「あなたは聖女として召喚された」


 


美咲はしばらく固まっていた。


 


そして。


 


「帰れるんですか」


 


王太子は答えなかった。


 


それで十分だった。


 


美咲の顔が引きつる。


 


「ちょっと待ってください


 


 家族いるんですけど」


 


声が震える。


 


「友達もいるし


 


 学校もあるし」


 


怒りがこみ上げる。


 


「なんで勝手に連れてきて


 


 帰れないんですか!」


 


美咲は机を叩いた。


 


「誘拐じゃないですか!


 


 犯罪ですよね!?


 


 人さらいですよね!?」


 


怒りの言葉が止まらない。


 


王太子は何も言わなかった。


 


ただ黙って聞いていた。


 


美咲が息を切らして黙るまで。


 


しばらくして。


 


王太子はゆっくり頭を下げた。


 


「……申し訳ない」


 


その言葉は静かだった。


 


「あなたの言う通りだ」


 


美咲は驚いて顔を上げる。


 


王太子は続けた。


 


「だが


 


 それでも


 


 あなたが必要なのだ」


 


その声は落ち着いていた。


 


「この国には聖女が必要だ」


 


美咲は黙っている。


 


王太子は言った。


 


「聖女がいなければ


 


 この国は滅びる」


 


部屋は静まり返った。

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