毒を食らわばお前まで
浮気している夫に差し出された毒入りハンバーグ
夫が私を殺そうとしている。
夫は私の目の前で、出来立ての毒入りハンバーグの皿を、ニコニコしながら持っている。
そうまでして志帆とかいうあの若いだけで頭の悪そうな浮気相手と一緒になりたいのかと、ある意味感心した私は、何も知らないフリをして夫の差し出したハンバーグを食べた。
その瞬間、夫の目が見開かれた。
私を見てニヤリと喜びに溢れ歪んだ笑みを浮かべたと思ったら、夫は急に苦しみ出した。
そして、鼻や口、目やら耳やらから血を流して倒れた。
私を殺そうとしていた夫が死んだ。
今度は私が笑う番だ。
毒が入っていたのは、夫が私より先に食べた料理の中。
夫が持っていた毒の瓶は、私が前もってすり替えておいた。
貴方の可愛い浮気相手は一足先に地獄に行ってるから、其処で二人で永遠に愛し合ってね。
静まり返った部屋で、私はスマホを手に取る。
『もしもし。陽子?』
私の愛する圭一の声が、耳に甘く絡みつく。
「死んだわ。これで圭一と一緒になれるわね。」
圭一と過ごす未来にうっとりと想いを馳せる私だったが、次に圭一から放たれた言葉が、私の心を奈落へと突き落とした。
『あのさ、俺、本カノと結婚することにしたから、今日でお前とは別れるわ。』
──は?
何言ってるの?本カノ?
突然のことに私は混乱した。
待って、待ちなさい、おい待てよ。
私が圭一を問い詰めようとした瞬間、身体中に針を刺されたような激痛が走った。
筋肉が硬直し、上手く息ができない。
──そして、私の鼻や口から、真っ赤な血が。
『別に陽子にすり替えてもらった瓶が毒じゃないなんて俺、言ってないし。』
私は夫が運んできたハンバーグを思い出した。
嘘だ。
まさか、私が圭一から預かってすり替えた瓶の中身も、毒。
「嫌…待って、酷い…助け…て…。」
夫の亡骸を眺めながら、私も先ほどの夫と同じように苦しみ、血を吐き、死んだ。
「誰と電話してたの?」
電話を切った圭一に彼女が聞く。
「んー?元ATM。」
え?と聞き返す彼女に圭一は「冗談だよ。」と笑いながら彼女をソファーに引き寄せる。
「あー!圭くんもしかして浮気してるんでしょ〜そんなことしたら許さないんだから〜!」
と、ふざける彼女と一緒に圭一は笑った。
やっぱり結婚するなら若くて可愛くて頭が緩い女が一番扱いやすいな、と。
「あ、そうだ!
この前買ったワインとおつまみ持って来るね!」
彼女は無邪気にキッチンにパタパタと走っていった。
そこで彼女から笑みが、消えた。
彼女は以前から圭一の浮気に気付いていた。
結婚の約束までしたのに、酷い男だ。
毒を使って人を殺していることも、もう知っている。
私の友達の志帆も、あいつの毒で殺された。
志帆は自分の彼氏が既婚者なんて知らなかったのに。何も知らなかったのに。
あいつはクズだ。
好きだった、愛してた。
けど、あんな奴、生きてる価値なんて全くない。
彼女の手の中には、圭一の部屋から盗んだ毒。
それを圭一の酒のグラスへ、ゆっくりと、ゆっくりと、流し込んだ。
さよなら圭一。
この一杯のあと、グラスに注がれるのは──お前の血だよ。
〈終〉




