凋謝
委員長が悪いんだ
肩で息をしながら僕は家の自室で、動かなくなった委員長を視下ろしていた
窓の外は雨が続いている
仰向けに倒れ、滅茶苦茶な方向に四肢を投げ出した彼の頭の後ろから、雨漏りが染みていくように血が広がり始めていた
眼鏡と揃った前髪の奥で瞳が、微動だにせず真上を向いている
死んでしまったのは少し残念だけど、別にそれでも良かった
僕は委員長に覆いかぶさると彼の唇を吸いながら、恋人の様に彼のシャツのボタンを上から順に外していく
生きてた時はあんなに甘くて柔らかかった唇がゴムみたいな感触になっていて、なんとなく気持ち悪かった
動かない委員長を相手にワイシャツを脱がせていく
とにかく腕の辺りが面倒だ
『インナーだけ脱がせて、後でまた裸の素肌にワイシャツを着せようかな』と考えながら、肩や腕に噛み付いて歯型を付けていく
感触は相変わらず良くなかったが、血の気の引いた肌の色や冷たさが、生きている時とは別の妖艶さを彼に持たせて居る
僕は委員長の首筋の皮膚を少し噛み裂くと、噛む場所を上から下に移しながら、彼の躰を舐めたり嗅いだりした
インナーは面倒になって、鋏で切除した
『人攫いの人たちとかは、こんなに楽しい事をしてるんだ』と思うと羨ましかった
次の進路相談では「人攫いになりたい」と言うべきだろうか
そもそも、学校に今後行くのかすら解らないが
「へぇ……」
衣服を総て剥ぎ取ったあと、最初の感想がこの一言の感嘆だった
委員長は、あんな真面目な性格の癖に臍部にピアスを付けていた
小さくて綺麗な紫色の、蜘蛛をあしらった様なやつだ
引き千切って外そうかと思ったが、案外取れない
仕方ないので、螺子になっている部分を回して外した
取ったピアスを口に含んで転がす
少しだけ血の味がして、美味しかった
「ほら、委員長……おいで」
焦るように僕も衣服を脱ぎ散らかして、自分のベッドに委員長を招き入れる
華奢な筈の躰はそれなりに重かったが、口付けながら裸の彼をお姫様抱っこをするのは得難い経験だった
夢を沢山視た
夢の中でも委員長は死体だったけど、僕たちは二人で旅行にも遊園地デートにも行った
恋人たちがする様な事は全部やって、これまで生きていた中で最高の夢だった
起きると、顔中が濡れていた
布団も枕も湿っている
僕は寝ながら泣いて居たみたいだった
カーテンを引いているので解らないが、時間は多分翌朝の明け方になっている
寝る前に委員長の額にふざけて貼った御札を模したポストイットは、剥がれて失くなっていた
『死んだ委員長くらいは僕の為だけに動けば良いのに』という願いを込めて付けたものだったので、これはとても精神的につらかった
蠅が飛んでいる
よく視ると、部屋中が蠅だらけだった
隣で寝ている委員長も臭い
僕は「くっせえな、この死体……窓から捨ててえ」と独りで暗闇に呟いた