2+2=4(健吾×時也)④
どきどきしていたらあっという間に遊園地に行く当日になった。駅で待ち合わせだけど、駅までの途中で日高と会った。
「根岸は遊園地ってよく行く?」
「ううん、あんまり行かない」
「俺も。だからわくわくしてる」
遠足の日の子どものような顔をして微笑む日高が可愛くて、胸がきゅんとなる。やっぱり今日は、日高をもっと好きになってしまいそうだ。
駅に着いて少しすると伊達が来て、待ち合わせの時間に江藤が来た。
「江藤、遅い」
「時間どおり」
伊達の言葉を江藤はさらりと躱して四人で電車に乗る。電車が数駅進んだところで座席がふたつ並んで空いた。
「根岸、座って」
「え、でも……」
「ほら」
日高に半ば強引に座らされてしまう。いいのかな、と思っていたら、伊達によって隣の座席に江藤が座らされた。
「ちょっと待て、違うだろ」
「違わない」
江藤が文句を言うと、伊達は即答。ふたりも仲いいよな、と思いながら様子を見る。俺の前に日高が立ち、江藤の前に伊達が立った状態で電車は進む。見慣れない角度から見る日高はやっぱり格好よくてじっと見てしまうと、日高に気づかれてしまい微笑まれた。恥ずかしくて頬が熱くなる。
遊園地に着くと、まずはジェットコースターに乗った。四人とも苦手なものはないということで、いきなり絶叫系。次にティーカップでその次はバイキング。
「ちょっとハード……」
「少し休もうか」
苦手なものはないけれど、乗り続けるのはきつい。俺の言葉に日高が足を止めてくれる。近くのベンチに座り、一息つく。
「休む時間がもったいない」
「離せよ」
「いいだろ」
伊達は江藤の首に腕を回し、引きずるようにお化け屋敷に連れて行ってしまった。いきなり日高とふたりきりになってしまい、どうしたらいいかわからない。学校や帰り道でふたりきりということはあるけれど、それ以外の場所では初めてで、しかも遊園地という少し非現実的な場所なのでどきどきが加速してしまう。
「もう大丈夫だから、伊達と江藤と合流しよう?」
ベンチから立ち上がると、日高に手首を掴まれ、びくりとしてしまう。
「あと少しだけふたりでいたいな」
どくんと心臓が甘く高鳴り、変に期待しそうになる自分を抑え込む。ベンチにまた腰かけるけれど、なにを話したらいいかわからず自分の指をいじる。
「……根岸はさ」
「なに?」
「好きな人、いるの?」
驚きすぎて口から心臓が飛び出しそうになる質問だった。微かに頬が熱くなるのをごまかせず、少し俯いてから頷く。
「……いる」
「今、隣にいる人が好き」……言えない言葉を呑み込んで一言答える。
「そっか……」
なぜか寂しそうな声が隣から聞こえてきた。ふたりで無言になり、なにか話さないとと思うのになにも浮かばない。日高の顔を盗み見ると難しい表情をしていて、なんとなく話しかけないほうがようさそうなのでそのまま黙っていることにする。なんだか気まずいな、と思っていたら伊達と江藤が戻ってきた。機嫌のよさそうな伊達と、どう見ても不機嫌な江藤。
「どうしたの、江藤」
「別に」
日高の問いかけに不機嫌丸出しで答える江藤。伊達はそんな江藤を意味ありげな目で見ているから、たぶん伊達がなにかしたんだ。
「昼食べに行こう」
ぶすっとしている江藤の髪をぐしゃぐしゃと撫でながら伊達が言う。江藤は伊達の手を振り払い、髪を直している。それを見て笑う伊達。このふたり、よくわからない。フードコートに向かう間も伊達は江藤にちょっかいを出していた。
俺と江藤はロコモコ丼、日高と伊達はハンバーガーにした。
「ロコモコ丼もよかったかな」
「一口食べる? あ、でもスプーンひとつしかない……」
どうしようかな、と悩む。もうひとつスプーンをもらってこようか。
「別に同じスプーンでもいいじゃん。食べさせてやれば?」
「え……」
「うん、根岸が嫌じゃなければお願い」
江藤がさらりと言って日高も頷く。嫌じゃなければ、って嫌なわけないんだけど……。
「じゃ、じゃあ……」
スプーンに一口分をのせて日高の口元に運ぶと、日高がぱくりと食べた。これって「あーん」だ、と頬が熱くなる。
「おいしいね。ハンバーガーもおいしいよ、食べてみる?」
日高が俺にハンバーガーを差し出す。どうしよう、と思うけれど、勇気を出して一口かぶりついた。
「おいしい……!」
「でしょ?」
嬉しそうに微笑む日高の笑顔が優しくて、どうしようもなく胸が高鳴る。やっぱり日高をもっと好きになってしまったと思う。日高に食べさせてあげたスプーンで、間接キスだ、とロコモコ丼を食べながら伊達と江藤の様子を窺うと、ふたりは自分の分だけを食べていて、その口角は微かに上がっている。もしかしたら、ふたりの計画にうまく乗せられているのかもしれない。
日高の様子も見てみると、日高はなんでもない顔をしてハンバーガーを食べている。意識しているのは俺だけなのかもしれない、と少し切なくなってしまった。