2+2=4 肉まん(伊達×江藤)
公園を後にして、伊達と並んで歩きながら先程見たシーンを思い出す。ひとつの肉まんにふたりで同時に顔を寄せ、おでこをぶつけて顔を真っ赤にしていた。恥ずかしい奴ら、と思うのに、心のどこかに羨ましいと思っている自分もいる。ちょっとだけ……やってみたい、なんて。ちら、と伊達を見る。
「なに?」
「……いや」
「なんかあるなら言えよ」
「なんでもないよ」
“ひとつの肉まんでおでこコツン”をやってみたいなんて言ったら、笑われるどころか引かれるか、もしくは……いや、びっくりされすぎて無反応かもしれない。俺のキャラじゃない。時也みたいに可愛く甘えられたら、健吾みたいな甘やかす恋人だったら、素直に色々言えるんだろうけど。
「健吾と時也にはびっくりしたわ」
伊達がくくくっと笑う。こいつはこういう奴。それから俺を見て。
「江藤もあれ、やってみたい?」
「えっ」
「え?」
伊達が俺をじっと見るので俺は目を逸らす。まずい。ここは目を逸らすところじゃなかった。でも今更視線を戻せない。視線をぐるりと時計回りに一周させる。
「あー……えーっと……」
「ふーん……」
意味ありげな声に視線をゆっくり伊達に戻すと、伊達はにやりと口角を上げて俺の肩をぽんと叩く。
「ちょっと待ってろ」
「え?」
「これ、持ってて」
自分の通学バッグを俺に預けて、どこかに走って行ってしまう。なに……? その背を目で追いかけたけれど、すぐに見えなくなってしまった。
「お待たせ」
五分ほどで伊達が戻ってきた。その手には――。
「え……」
「すげーうまそう」
肉まんがひとつ。
まさか。
「ほら、せーので顔近づけるぞ」
「えっ!?」
やるの!? 本気で!?
伊達が片手で肉まんを持って、もう片方の手で俺の肩を抱き寄せる。心臓が大きく跳ねて、指先が小さく震えてしまう。
「で、でも……」
「いいから、いくぞ。せーの」
これは、もうやるしかない……!
ぎゅっと目を瞑って肉まんに顔を近づける。唇が肉まんに接触して、なぜかおでこに柔らかいものが触れた。そっと瞼を上げると、目の前に伊達の整った顔。
「え……えっ!?」
今のって……!?
「残念でした。俺が食べたいのは最初から肉まんじゃなくて、うまそうな江藤」
「なっ……」
「ごちそうさま。肉まんはやる」
伊達が肉まんをこちらに差し出すのでおとなしく受け取るけれど、頬がどんどん熱くなっていって耳まで熱い。
「さて、帰るか」
伊達が自分のバッグを俺の手から取って歩き出すのを追いかける。並んで歩きながら、伊達の表情を盗み見る。なんでもない顔をしていてちょっと悔しい。どきどきでおかしくなりそうなのは俺だけなんだろうな。
「江藤、今日うちの親、帰り遅いから寄ってけよ」
「……嫌って言ったら?」
「言わせない。無理矢理連れてく」
「なにそれ」
笑いながらおでこにそっと触れると、先程の温もりがまだ残っている気がする。甘やかす恋人じゃないし、こういう奴だけど、俺は伊達じゃないとだめ。まるで俺の気持ちを読んだかのように伊達が不意に微笑みかけてきて、心臓が甘く高鳴ってしまう。
どきどきしすぎて、肉まんの味が全然わからなかった。