2+2=4(伊達×江藤)⑦
入学式の日、高校で伊達と会う。春休み中だって頻繁に伊達がうちに来ていたから、伊達の「おう」に俺も「ああ」としか返せない。
「俺、二組だった」
「俺は四組」
知ってる、と言おうとして言えなかった。それじゃ伊達のことをすごく好きみたいだから。
ふたりで階段を上がりながら、思い出したことを聞いてみる。
「おまえ、なんであのとき時也にあんな言い方したの?」
「あんな?」
「いつまでも四人仲良くいられない、みたいに」
「ああ、あれも本心」
階段の手すりに触れて俺を見た伊達が少し口角を上げる。なんだろうと思ったら、俺のほうに手を伸ばし、髪を軽く撫でた。
「“も”?」
「そりゃ仲良くできるならしたいだろ。でも受験に絶対はないからな。学校離れりゃ時也だって俺だって、そこで新しい友だちができるかもしれないし」
「……」
こいつ、この見た目ですごくいろいろ考えてるんだな、とじっと見てしまうと目が合った。
「……俺にも第一志望教えてくれなかったけどな」
「拗ねてんのか」
「拗ねてない」
「心配すんな。おまえとはなにがあっても離れるつもりないから」
そういうことをさらっと言うから、俺はどきどきしすぎてどうしたらいいかわからなくなる。
「それなら尚更教えてくれたってよかったんじゃないの?」
「……」
伊達が俺を見てひとつ息を吐く。しつこすぎて呆れられてしまっただろうか。
「江藤と同じとこ受けて、合格したら告白しようって決めてたから言わなかったんだよ」
だからそういうことをさらっと言うなよ、と頬が熱くなる。階段を上がると、ホールに健吾と時也がいる。
「邪魔するのはやめとくか」
なんとなく、この気まずい感じのままになってしまうのかな、と思った。話しかけづらいと言うか、どう声をかけたらいいかわからない。
でも伊達は無言でふたりに近づき、時也の頭をうしろから小突く。振り返った時也の目が見開かれ、表情が驚きに変わる。
「なんで……」
なんだか気恥ずかしくて、俺はそっぽを向く。ちらりと伊達の様子を窺うと、伊達もそっぽを向いていた。
「偶然」
伊達と声が重なった。
「だから大丈夫だって言ったでしょ」
「健吾は知ってたの?」
「知らなかったけど、大丈夫な気がした」
健吾が時也の頭を撫でるのを見て、砂糖菓子を食べた気分になる。こいつら受験シーズン中もずっとイチャイチャしていたのか、と思いながら伊達を見ると目が合った。
「俺たちもイチャイチャする?」
「するか」
なに馬鹿なことを言ってるんだ、と目を逸らす。
「え?」
「イチャイチャ?」
健吾と時也が驚いているのを面白がった伊達が俺の肩を抱く。
「これ、俺のだから」
「!」
突然の宣言に頬が微かに熱くなる。健吾は驚いた表情のまま俺たちを見ていて、時也は真っ赤になっている。
「なんで、いつの間に!?」
時也が興奮して健吾の手を握ってぶんぶん上下に振りながら聞いてくる。健吾はそんな時也を甘い視線で見つめている。ごちそうさま。
「誰がおまえのだ」
伊達の足を踏もうとしたらよけられた。
「二度も踏まれるかよ」
肩を抱く手にぐっと力がこもり、微笑みが向けられて少しどきりとしてしまう。
「一緒に帰ろうか」
健吾の言葉で、四人で一緒に下校することにした。健吾と時也と気まずくてずっと伊達とふたりでいたから四人は久しぶりだ。
「親と来た?」
健吾に聞かれて三人で頷く。
「なんか、役員決めとかで別の教室に呼ばれてたから時間かかりそうだね」
時也が健吾のブレザーの肩についた桜の花びらをつまむ。
「江藤の親御さんには挨拶しとくべきだったかな」
「しなくていいよ。てか会ったことあるだろ」
伊達の言葉に頬が熱くなる俺の顔を伊達と、なぜか時也が覗き込んでくる。
「江藤ってそんな顔するんだね」
「なにが」
「真っ赤だよ。ね、健吾?」
「うん」
健吾まで……。
「うるさい」
顔を見られないように少し早足で歩くと、伊達が速度を合わせてきて隣を歩く。うしろで健吾と時也がこそこそやっているから伊達とふたりでちらりと見てからすぐ視線を逸らす。
「江藤」
「え?」
名前を呼ばれて隣を見ると、ちゅっと音を立てて小さな温もりが頬に触れた。
「すげえ真っ赤」
「……!」
「健吾、健吾! 見ちゃった!!」
「時也、落ち着いて」
おまえたちが手を繋いでるのは見て見ぬふりしてるんだから騒ぐなよ、と健吾と時也に言いたくなる。伊達のこういうふざけたところ、悔しいけれど嫌いじゃない。
「……腹立つ」
なんだよこれ……居心地いい。
伊達の隣を歩きながらそう思った。
END