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ただ、存在していなかった

作者: T

君は暑くないのかな

花瓶に入れた花を捨て、花瓶を元の位置に戻す

朝、買った花を花瓶に挿すのが自分の日課だ

花瓶を机に置いた時、君に鞄を奪われた

君のあった日は猛暑日で、外に置いたアイスが一瞬で溶けだすようなそんな日だった

「誰だか知らないけど、鞄、返してもらえる?」

慌てて追いかける

「返してよ」

「私についてきてくれたらね!」

なんでそんなことしなくてはいけないんだろう

ただ何故か頭ではそう思っているのに身体は言うことを聞かなかった

「どこに行くつもり?」

「花畑!」

花畑?こんな暑い日に?

この人はお花見気分でいるというのか?

「今日は暑いから行くなら違うところにしよう」

「嫌だ!」

嫌だって?

急に連れ出しといて何を言っているんだ

そもそもなぜ鞄を奪うんだ?

早く返して欲しい、早く帰りたい

と、昔の自分ならきっとこう思っているのだろうけど

だけど今の自分は君が連れ出してくれるのをワクワクしている

今日も君は鞄を奪う

「今日も返してくれない感じ?」

「そう!今日も遊ぶよ!!」

君がそう言うと心が踊る自分がいた

「今回はどこに行くの?」

「秘密!」

「秘密ってどういうこと?」

「何がなんでも秘密なの!」

君はそう言うと何も言わせまいというような素振りで早歩きで進む

君に必死でついて行く

セミが鳴いている

汗が滴り体温が上がるのを感じる

「暑くないの?」

「全く!ほら!早く行くよ!」

歩くペースを上げる君はどんどん先に行く

汗を認識した途端、汗が滝のように出てくる

今日は暑すぎる

君は唐突に止まった

「ねえ、君と私って何が違うのかな。」

「どういう意味?」

「うーん、それは言えないんだけど、でも1個あった!これも言えない!」

よく分からない質問をされよく分からないまま会話が終わった

今日はどこまで行くのかな

セミが鳴き続け、太陽は自分を照らす

辺りにはユリやヒマワリ、紫陽花など様々な花が咲いている

ここは最初に来たところだ

最初に君が連れていってくれたところ

君はユリの花が好きだったな

思い出を噛み締めるように君の背中を追い続ける

涼しい風が吹き体温が下がったような気がした

夏は好きじゃなかった

何故かは思い出せないけど、きっと暑いからだと思う

暑さを嫌っていた自分が君についていっているのかは分からないが

きっと君が自分を強引に連れ出したのが事の始まりだろうな

風が強くなってきて暑さもだいぶさっきよりはマシになってきた

「涼しいね。」

「そう?もうすぐつくよ!」

「……今まであっという間だったね!」

「うん。」

「ありがとうね!ここまで来てもらって!」

「ううん。で、あとどのくらい?」

「じゃーん!もうついたよ!」

「………海?」

「うん!」

海なんて来たのはいつぶりだろうか

そういえば君は海が好きだったよね

「君が海に来た理由って、君が海を好き、だから…」

「ん?どうしたの?」

君はなぜここにいる?

「君、は…」

どうして、君は

「…いつもありがとうね。君しか私のことを気にかけてくれないよ。」

「いや…そんなこと…」

どうして君がいる?

頭が回らない

だって君は

「思い出した?」

思い出したくない

君はだって、

「こんな所まで連れ出してごめんね。少し寂しかったんだ。」

寂しかった?

「お花ももう大丈夫、ユリ、すごく綺麗だった。」

花は君が寂しくないように花瓶に、

花瓶は誰のために?

君のために?

でもなんで?君はここにいる

君はここにいるからどこにも行かないよね

また一緒に帰るんだよね?

「…もう帰ろう?暗くなっちゃうよ。」

自分の声が震えているのがわかる

この声はちゃんと君に聞こえただろうか

海の波の音も塩のような匂いもセミの声も

何も聞こえない

暑くもない

君と世界に2人だけのような

自分の息しか聞こえない

呼吸が上手くできない

冷や汗と鳥肌が止まらない

「……君はもう帰ってるよ。今までありがとう。…また私を思い出したら、連れ出しちゃうからね〜!」

はっ、と目が覚めたような感覚に陥る

前を見ると君ではなく自分の家だった

セミの声が聞こえる

だんだん体温が上がっていくのを感じる

君はどこに?

いや君は、

自分が花を花瓶に挿してたのは、

花瓶の手入れを毎回していたのは、

自分を連れ出してくれたのは、

自分が夏を嫌いになったのは、

全部全部君のせいじゃないか

他の奴らは君を居ないように扱って、

君はそこにいるのに

君は自分に相当苦しんで欲しいみたいだ

あの場所にもう一回行こうとしても無理だった

見つからなかった

君を思い出しても、ユリを花瓶に挿しても

色んなことをしても

君は僕を連れ出してくれないじゃないか

ただ、存在していなかったように

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