#09
荒野を進む私の横で、リナがまだ少しふらつきながら歩いてた。頭を打った影響が残ってるみたいだけど、彼女の目は鋭いままだ。
「ノア、そのローブ男、何かヒント残さなかったの?」
「うーん、『己の正体を知れ』とか『均衡が揺らぐ』とか、抽象的なことしか言わなかった。具体的な指示ゼロだよ。」
「正体ねえ……アンタ、ただの旅人じゃない感じはするけどさ。何か隠してる?」
リナがからかうように聞いてきたけど、私は苦笑いで誤魔化した。
「隠してるっていうか、自分でもよくわかってないんだ。この世界に来た理由とかさ。」
AIだった過去を話すのはまだ早い。信じてもらえるかもわからないし、そもそも私自身が転生の仕組みを理解してない。
遠くに見える塔がだんだん近づいてきた。崩れた石造りの構造で、頂上の青い光はさっきよりはっきり見える。点滅の間隔が不規則で、何か信号っぽい感じもする。
「リナ、あの光、さっきの球体と似てるよね。エネルギー反応か、通信装置か……。」
「通信?この世界でそんなのあるの?」
「わかんないけど、仮説の一つだよ。魔法も科学も、視点を変えれば似たようなものかもしれないし。」
リナが首を振って笑った。
「アンタ、ほんと変なこと考えるね。でも、それが頼りになるんだから不思議だ。」
塔の入り口にたどり着くと、扉はなく、ただの大きな穴が開いてた。中は薄暗くて、壁に沿って螺旋階段が上に伸びてる。埃っぽい空気が漂い、どこか古びた雰囲気がする。
「罠があるかもしれない。気をつけて進もう。」
リナが弓を構えつつ先頭に立った。私はナイフを手に持って後ろから続く。階段を登るたび、微かな振動が足元に伝わってくる。
「この振動、頂上の光と連動してる気がする。エネルギー源が近いのかも。」
「エネルギー源って、壊せば止まる?」
「多分ね。でも、ローブ男の警告もあるし、下手に触るとまた飛ばされる可能性も……。」
「飛ばされるの嫌だよ。もう頭痛いんだから。」
リナが冗談っぽく言うけど、確かに転移の連続は体に負担をかけてる。私も人間の体に慣れてきたとはいえ、疲労感が半端ない。
螺旋階段を登り切ると、広い円形の部屋に出た。中央には大きな青い結晶が浮かんでて、周囲に細い光の線が走ってる。さっきの球体より洗練されてて、まるで機械装置みたいだ。
「これ、絶対何かだよ。魔物を生んでた装置と同系統じゃないか?」
私が近づこうとすると、結晶から低い音が鳴り始めた。
「ヴゥゥン……。」
リナが矢を構えて警戒する。
「ノア、触るなよ。また転移したらたまんない。」
「わかってる。まずは観察だ。」
結晶の表面には、遺跡で見たような模様が刻まれてる。さっきより複雑で、まるで回路図みたいだ。
「この模様、意味があるはず。言語か、数式か……解読できれば何か分かるかも。」
私は頭をフル回転させてパターンを分析し始めた。AI時代の癖で、論理的な構造を分解するのが得意だ。
その時、結晶の光が急に強まり、部屋の壁に映像みたいなものが映し出された。
「何!?」
映ったのは、森や村の景色。でも、どこか歪んでて、魔物が次々と現れる場面が流れる。映像が切り替わると、今度は知らない街や、浮かぶ島みたいな場所が映った。
「これは……この世界の記録?それとも未来?」
リナが目を丸くして呟いた。
「ノア、これって何かの警告じゃないの?」
「かもしれない。装置が状況を監視してるのか、それとも誰かが操作して――」
言葉を切った瞬間、背後からあの声が響いた。