記憶の欠片
めちゃくちゃ緊張しています
ギィ……ギィ……。
ジャラ……シャラ……。
鎖が軋む音が耳に響く。どこかから水が滴る音が聞こえ、鼻を突く鉄の匂い——
視線を下げると、床に小さな手が落ちていた。震えながら、私の手を強く握っている。
「ミア……ごめん……」その声はかすれていて、涙で濡れた顔が見えた。
「大丈夫。離さないから——」そう言いながら、私はその手を握り返す。血の滲んだ掌に力を込める。絶対、傷ひとつ付けさせない。
足音が近づいてくる。ギィ……ギィ……。
「まだ生きてるか?」低い声が響く。笑う気配が感じられる。
次の瞬間——
ガンッ!!!
腹を蹴り上げられる。肺の中の空気が一気に押し出され、意識が揺れる。
「ッ……」それでも——私は手を離さなかった。
バキッ……。
今度は手の甲を踏みつけられる。砕けるような痛みが走る。それでも、手の中にあるものを絶対に取られないようにと握りしめる。
「離せよ。お前が守ってても無駄だろ?」
笑い声が聞こえる。けれど、私はどんなに痛くても、その手を握り締めるのをやめなかった。
**守るって決めたんだ。**
何があっても、絶対に。
ゴォォォォォ……!!!
その瞬間——熱が爆発した。視界が真っ赤に染まり、頭が焼けるように熱い。意識の奥から、何かが弾け飛ぶ感覚。
「ミア!!!」
誰かが叫んだ。光が砕け散り、世界が壊れていく——。
——————。
「……ミア!!」
強く揺さぶられ、はっと目を開けた。息が荒い。心臓が痛いほど速く打っている。
(だれ?)目の前には、キラキラ光る水面のような髪の毛を持つ彼が心配そうに見ている。
鳥の声。暖かな陽射し。それが、まるで遠い世界のように感じた。
「……あれ?」
手のひらにじっとりと汗が滲んでいる。小指の指輪が付いている部分から不快な感触がして、無意識に開いた。
ここどこだっけ?
「ミア……手、血が出てる……!」
彼の声が焦りに滲む。
「大丈夫!? 早く手当しないと!」
「……アル……?」
アルがいる。だからもう大丈夫
「よかった、僕のこと覚えた……混乱してると思うけど、今は魔法行使クラスの後、学園の中庭で昼食を取ってたんだ。それでミアは寝ちゃったんだけど……」
「うん、なんとなくわかった」
いつものようにフォローしてくれるアルに安心する。彼の手が、そっと私の手を包み込む。
あったかい——。
ただの体温ではない、アルの魔力だ。傷がふわりと癒えていく。
「何か、嫌な夢でも見た?」
「ごめん、よく覚えてないみたい」と答えながら、まだ温もりが残る自分の手を見つめた。残っているのは、強烈な恐怖と——そして安堵感。