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8. それは、理屈ではなく

 アルティミシアが帰宅することになり、身支度を整えるためにミハイルはエレンとともに退室した。

 その手伝いのために部屋に向かう侍女たちとすれ違う。

 自室に戻り、後に続いて入ったエレンが扉を閉めると、ミハイルは大きなため息をついた。


「はあぁぁぁぁ~~」

 がっくりと地面に膝をつきたい気分だったが、ミハイルはどすんとソファに身を沈めた。笑いながらエレンも向かいに座る。

「あんなぽんこつなお前初めて見たよ。あー面白かった」

 エレンがまた思い出したようにくっくっと笑う。


「何でお前あんなに彼女と親し気なんだ」

 ミハイルがすねたようににらむと、エレンは意地悪くにやついた。

「警備隊から引き離す時、俺は『兄さん』だったからな。ここに来るまでにちょっと話したし」

「俺ももっと話したかったな・・」

 ミハイルは、アルティミシアと目が合って微笑みかけられた時に、見とれてしまったのだ。


 アトラスではない。アルティミシアに、イオエルではなくミハイルが、魅了された。

「お前あれで下手に話してたらぼろがボロボロ出てただろ。『銀の髪に金の瞳を持つ人物』を内密に探してたことも、彼女に無断で婚約しようとしてることも、『至急の要件』が今からストラトス領の彼女の両親に婚約誓約書の署名を取りに行こうとしてることだってことも、言わずにお嬢さんとなごやかなおしゃべりができるか?」


 ミハイルはがつんがつんと後ろ頭をハンマーで殴られているような心地がしてうなだれた。

「だから俺が彼女を送るのを止めたのか」

「そうだ。馬車なら宵の明星亭まで30分、ってとこか。その間、どうやって間を持たせるつもりだったんだよ。現時点で、言えないことばっかりだろうが。俺なら世間話だけでつなげる。何か聞かれても、お前に都合の悪いことは言わない」

「・・・」


 言われてみればそうだった。思った以上に、自分は浮ついていたらしい。

 今下手に婚約のことをアルティミシアに知らせて、断られたとしても、じゃあやめようという話ではない。どうせ押し進める話だ。それなら事が成ってから知らせた方が、アルティミシアにとっては負担が重ならなくて済むだろう。

 責められるなら、甘んじて受ける。

 でもできたら、アルティミシアの悲しむ顔も、怒る顔も、泣く顔も見たくない。


「急ぎの要件があるなら自分にかまわず行けって言われた時はへこんだ・・あとこれで最後みたいにお世話になりましたって言われた時も」

 アルティミシアにとっては、ミハイルはもう会うこともない、ただの雲の上の公爵子息に過ぎないのだと思い知らされた。

 エレンがまた思い出したように吹き出す。

「お前が名前で呼んでほしいなんていうから、お嬢さん凍り付いてたぞ。あれは失言だったな。婚約が決まってから言うべきだった」


「エレンだって言ってただろう、さらっと」

「俺のは単に、ウィーバー様なんて言われちゃむずむずするからだよ。・・・ま、何かわけアリそうだけど、やっと見つけたんだろう、先は長い、頑張ればいいよ。お前がこんなに熱量を持って何かをしようとしてるのは初めて見るからな、応援するよ」

「エレン・・じゃあまずどうやったらあんなに彼女と楽しそうに話せるのか教えてくれ」


 エレンが腹を押さえてうずくまる。

「久々に・・腹筋鍛えられてる・・っ。あははムリ死ぬ! はぁ~しんどい。貴族だけど、いい意味でそうとは思えないくらいめちゃくちゃ話しやすいぞ、お嬢さん。お前が無駄に緊張感を与えてるんじゃ、ってか、そういえばお前の顔を直視しても平気だったな。凍り付いてがん見してたけど、真っ赤になるとかなかったもんな」


 それはそうだろう。ミハイルは嘆息した。

 アトラスの記憶が戻ってしまった以上、アルティミシアにとってミハイルの顔は、魔王を倒しにいく旅の間中毎日毎日突き合わせていた顔だ。いくら美貌とうたわれていたとしても、見慣れるを通り越して見飽きていたかもしれない。

 いや、見飽きていただろうのはアルティミシアではなく、アトラスだが。


「こんな顔いらない・・」

 ミハイルはソファに座ったままぐらりとかたむいて倒れ込んだ。

「それ外で言うなよ? わりと世界中を敵にまわすことになるからな? でもさ、もうちょっと待てばちょうどよくなるよ」

「何が?」

「お嬢さんと並んだら、だよ。今は幼さの方が目立つ感じだけどさ。色合いが珍しくてひきつけられるのもまああるけど、それ抜きにしても、もうちょっとしたら、めちゃくちゃきれいになるよ、あの子」

「知ってる・・」

 ミハイルのつぶやきは、アルティミシアの準備ができたとの連絡にきた侍女のノックにかき消された。

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