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50. お泊り女子会 ③

「私が困ってるのはエスコート問題。後の夜会にも呼ばれちゃってるのよ、何でか」

 ルドヴィークも、さすがに『詳しい説明』だけ聞きに来いとは言わないだろう。夜会まで招待したのはあくまで気遣いだ。レギーナもわかっているのだろう、ルドヴィークを責める響きはない。


「カイルさんは?」

 聞くユリエに、レギーナはふるふると首を横に振った。

「デビュタントの時のことがトラウマになったらしくて。王都に来ることを頑強に拒んでるのよ。どのみち今来るってなっても、もう間に合わないし」

「確かに」


 パヴェル領までは馬で1週間かかる。直通はないから最寄り駅まで鉄道を利用したとしても最寄り駅が遠いから5日はかかるだろう。立太子の儀は5日後。間に合わせるのは難しい。

 レギーナの従兄のカイルは、デビュタントの時わざわざ辺境から来てくれたにも関わらず、緊張のあまりに体調を崩してミハイルに強制退場させられた、気の毒な人だ。


「ダリルさんに頼んでみるとか」

 ユリエが、ドアの外で護衛してくれているだろうダリルの方を指さした。

「いえ、ダリルさんにはサリアさんが・・・あ」

 いい案はないか、と考えているところにユリエの提案を耳にしたせいで、流れるようにうっかり口に出してしまった。アルティミシアは両手の指先で唇を押さえた。


「えっそうなのそうなの?」

「意外だけど言われてみればお似合い、かも」 

 食いつくユリエ。ふんふんとうなずくレギーナ。

「わ、忘れてくださいすみません!」


「非公開なの?」

「いえまあメルクーリ家の七不思議の一つに数えられるくらいには公然の秘密ですが、ご本人たちは公表してませんので」

「あはは七不思議って。あとの6つ気になる」

「普通公表はしないわよ。ただ付き合ってるだけなら」


「戻しましょう! なのでダリルさんは難しいですが、それで言うなら騎士隊のどなたかにエスコートをお願いするとか」

「王家主催の公式行事よ? あまりにも関係ない他人だと、相手に迷惑がかかるわ」

 決まった相手がいない場合、エスコートは基本親族に頼むのが不文律。ソールがユリエを誘ったように、公的な行事であればあるほど、親族ではない場合『お相手』なのだとみなされる。


 コンコン


 落ち着いた音のノックが鳴った。これはサリアだ。


 本来ならアルティミシアがドアを開けに行くべきだが、そもそも鍵はかかっていないし、アルティミシアはもう寝衣だ、相手がサリアだとわかっているので、

「サリアさん。どうぞ」

 と声をかけた。静かにドアが開いて、サリアが一礼をして入ってくる。


「このような時間に申し訳ありませんお嬢様」

 ベッド脇に立ってもう一度サリアは一礼したが、明らかに申し訳ないのはこちらの方だった。

「騒がしかったですか。ごめんなさいこんな時間まで。どうしました?」

「音は漏れておりませんので大丈夫です。実はこちらをミハイル様よりお預かりしまして」

 サリアは小さな封筒をアルティミシアに差し出した。


「こんな時間に? ミハイルが来たんですか?」

「いえ。別邸の夜番の騎士隊の方がこれを持って先ほど。もう戻られましたけど」

「そうですか。ありがとうございますサリアさん。サリアさんももう休んでくださいね?」

 アルティミシアが封筒を受け取って微笑むと、サリアも無表情ながら瞳をやわらげた。


「ありがとうございます。ではおやすみなさ」

 いませ、と全部言いきる前にユリエが言葉を挟んだ。

「サリアさん、ダリルさんとの馴れ初めをよかったらお聞きしたいです!」

 部屋をさがろうと一礼をした姿勢のまま、サリアが固まった。


 ぎこちない動きで頭を上げたサリアの顔は、無表情ながらほんの気持ちだけ、ほんのり赤い。

「「「 ! 」」」

 反応がかわいらしすぎて3人ともが絶句する。変な声が出そうだ。

 クールビューティーの恥じらう姿。破壊力がすごすぎて、3人対サリアの見つめ合いみたいな構図になってしまった。


 どうする。ここは私が何とかしないと。

 アルティミシアが空回りする頭で考えていると、サリアが一番に立て直した。

「し、仕事がありますので、私はこれで」

 噛んだ。あのサリアが噛んだ。萌えすぎてアルティミシアはもうパンクしそうだ。

 しかも仕事はもうない。休んでくれと言っているのに。


「おや・・・すみなさい」

 アルティミシアは何とか声を絞り出した。サリアは一礼だけしてくるりとこちらに背を向けてドアの方に歩き出した。若干早歩きなのは気のせいか。


 サリアがドアを開けて、横に目を向けた。そこにはダリルがいるはずだ。

 ダリルが小さな声で何事かを言ったらしい。音はなんとなく拾ったが、何と言っているかまではアルティミシアには聞き取れなかった。すると、サリアの耳が赤くなったところでぱたりとドアが閉まった。

「・・・・」


 ベッドの上の3人は顔を見合わせた。

「何て言ったか・・・わかった?」

 レギーナがつぶやく。ユリエとアルティミシアは首を横に振った。

「レギーナ聞き取れたの?」

 ユリエの問いに、レギーナも首を横に振った。


「気になる~~~! あと何あれもうかわいすぎて死にそう~~~~~~!」

 転がりだすユリエ、ぱたりと後ろに倒れ込むレギーナ、枕に顔をうずめてもだえるアルティミシア。

 少しの間、サリアの届けた封筒の存在は忘れ去られていた。


「で、何だったの、封筒」

 最初に正気を取り戻したレギーナが、脇に置かれたままになっていた封筒を指さした。

「忘れてました。開封します」


 アルティミシアは封筒を手にベッドから降りて、ペーパーナイフを取りに行った。

 その場で封筒を開封して、ペーパーナイフをしまってベッドに戻った。

 入っていたのは二つ折りの小さなカード。まずはアルティミシアが開いて読んだ。


『王都のカイル貸出中 主催者・本人了承済 借りを返す一つとして』


 ミハイルの流麗な直筆だ。この部屋は監視されているのだろうか。タイミングが良すぎて少しこわい。

 でも願ってもない申し出だ。アルティミシアは開いたカードを2人に見せた。

「レギーナ宛でした」


 ミハイルは、お世話になりっぱなしのレギーナに、またエスコートとしてエレンを貸し出そうと言ってくれているのだ。しかも、主催者(ルドヴィーク)本人(エレン)の了承を得た上で。

 つまりルドヴィークの『詳しい説明』にもエレンが参加できるということだ。レギーナのエスコートとして。


 エレンはデビュタントの時にレギーナのいとこの『カイル』だったため、今回も「レギーナは親族のエスコートで参加している」と周りの者に認識される。夜会で変な勘繰りをされることはない。

「ミハイル様様だわ」 

 レギーナが感動したようにつぶやく。


「このタイミングっていうのに私はちょっとおののいてるけど」

 ユリエが苦笑した。やはりそうなるか。

 レギーナがミハイルに感謝した理由が、エスコートを用意してくれたことの他にもう一つあることを、アルティミシアもユリエもまだ知らない。


 お泊り女子会は、3人が寝落ちするまで続いた。

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