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49. お泊り女子会 ②

ブクマ、いいね


ありがとうございます!

頑張れます!

「でもね? はいじゃあ婚約ってわけにはいかないじゃない?」

 ひとしきりはしゃぎまわって元の体勢を取り戻したところで、ユリエはぽつりと言って苦笑した。

「・・・」

 アルティミシアもレギーナも、すぐに言葉を返せなかった。


 ソールはど田舎で貧乏とはいえストラトス伯爵家を継ぐ嫡男で、ユリエは父が一代男爵ではあるが庶民だ。そこには身分差の壁がある。

 だがそれはあくまでも世間的に見れば、の話だ。


 貴族的な身分だけで言えばそういうことになるが、ユリエは国どころか世界的に有数な大商会の令嬢で、後継ぎでもある。ユリエの父(バラーシュ会長)がソールのことを認めてくれるかどうかは、一般的な物差しでは測れない。


「ストラトス家は、問題ありません。うちは派閥に属しているわけではありませんし、貧乏ではありますが最近店の売り上げが好調なので困窮してはいません。そもそも家と家のつながりを結婚に求める家系ではないので、兄が望むなら両親の反対はまずないと思います」

 アルティミシアの言葉にユリエはうん、とうなずいた。


「同じ話をソール様から聞かせてもらったよ。伯爵家とはつり合いません、って言って最初に断った時」

 かわいそうにお兄様。アルティミシアは痛ましさに目を閉じた。

 さくっと断られて内心で血を吐いていたことだろう。


「でも、ユリエはストラトス様の説得に応じたのよね? ユリエ的には、ストラトス様はアリなのね?」

 レギーナが容赦ない。でもそういうことだ。一番大切なのは、ユリエの気持ちだから。

「アリってそんな。むしろ私でいいのかなって思う気持ちの方が強くて。あのねアルティ」

「はい?」

 急に話を振られて、アルティミシアの声が少し裏返った。


「デビュタントの時、外遊してる父の代わりにエスコートしてもらえるってなって、ソール様は『いつも妹と仲良くしてくれてありがとう』って、ドレスとアクセサリー、靴まで一式贈ってくださったの。頼まれただけだから、本当なら当日エスコートだけすればいい話だし、『あのバラーシュの娘なんだから自分で用意した方がいいものをそろえられるだろう』って思われて、遠巻きにされるのが今まで大半だったから、そんな気遣いがすごく嬉しくて。たぶんその時からもう気になってたんだけど、デビュタントの時にね、いなくなったアルティを捜すソール様がね、本当にかっこよくて。ごめんアルティ! アルティがすごい大変な時だったのにこんな」


 アルティミシアはユリエの手を取った。

「あの時はひどい目に遭ったと思ってましたけど、今すべて報われたような気持ちです。私拉致されたかいがありました」

「それはそれで何か違うわね?」

 レギーナに瞬速でつっこまれた。でもいい。大好きなソールと大好きなユリエが。

 嬉しい、すごく嬉しい。

 だが。ということはつまり。


「じゃあ問題は、ユリエのご両親なんですね?」

 アルティミシアの問いに、ユリエは困ったように苦笑した。

「母はね、もう大歓迎。直接ソール様に会ったこともあるしね。ただ父がね、私が会ってほしい人がいるって手紙出したらなんかもうすねちゃって。会おうともしないんだ、これが。ほんとは今回の帰省の時に無理やりにでも引き合わせようかとも思ったんだけど、これはソール様が仕事で王都にいらっしゃらなかったみたいで、都合が合わなかったんだよね」


「すみませんそれは一周回って私のせいです!」

 アルティミシアが土下座の勢いで謝るのを見て、ユリエは首をかしげ、レギーナは呆れたようにため息をついた。

 ソールがその頃王都にいなかったのは、パヴェル領に向かってルドヴィークに同行していたからだ。


 それはミハイルがルドヴィークに協力依頼をしたからで、ミハイルは『聖女(アルティミシア)』を手に入れたいマリクによって暗殺されようとしていた。

 元凶はもちろんマリクだが、アルティミシアが軸にあることは間違いない。


 見かねたのかレギーナが口を挟む。

「ユリエ。デビュタントの時にストラトス様に同行してたってことは、知ってる、のよね? さっき王弟殿下の呼び出しのことについて話そうとしてたし」

「え、何が」

 ユリエは明らかに動揺して、なぜかアルティミシアの方を見た。


 察したレギーナが付け加える。

「私が知ってるのは成り行きというか偶然だったけど、これはアルティも知ってるわよ? もしかしてストラトス様に口止めされてる? ストラトス様が王弟殿下の側近だってこと」


 ユリエは目を見開いた。

「二人とも知ってるの? なんだー。え、何どういうこと?」

 きょろ、とユリエが二人を見回す。


「アルティ?」

 ちゃんと話した方がいいんじゃない? とレギーナに目で促されて、アルティミシアはミハイル襲撃事件の全貌を説明することになった。


 ユリエが先ほど「あ、内緒話って言えばさ」と聞こうとしていたのは、ソールに同行することになった、ルドヴィークの『詳しい説明』って、ナニコレ、という話だったのだと思う。

 ソールがルドヴィークの呼び出しにユリエを同行させようとしている時点で、この一連の話は解禁事項と見ていいだろう、アルティミシアはそう判断した。


 何かが欠けると辻褄が合わなくなるので、できる限り話した。

 アルティミシアが王都でマリクの策略を知り、パヴェル領に行ったことも。

 その流れでソールがルドヴィークの側近だと知ったことも。

 アルティミシアが、アトラスの転生者だということも。

 ミハイルがイオエルの転生者ということと、シメオンが関わっていたことだけは、伏せて。


「お、お腹いっぱいなんだけど」

 アルティミシアがとどめに出した聖剣を横目でちら見しながら、説明を聞き終えたユリエがうめいた。

「でしょ?」

 レギーナは仲間が増えて嬉しそうにしている。


 アルティミシアは聖剣をしまった。

「とはいえ私は私ですので。今まで通りにお付き合いいただけたら嬉しいです」

 アルティミシアの小さくなった声に、ユリエは笑ってうなずいた。

「うん、それはそうだよね。大丈夫。レギーナと一緒に墓場まで持っていくよ」

 レギーナを真似て言う。レギーナが小さく笑った。


 ユリエのことを信頼していないわけではもちろんなかったが、見る目が変わってしまうかもしれない、という不安はあった。だから、アルティミシアはユリエの言葉に深く息をついた。

 自分が思っていたよりも、緊張していたらしい。


「ソール様は違うアプローチで父に接触を試みるって言ってたから、たぶん何か考えがあるんだと思う。だから今回無理やり会わせなくてむしろよかったと思ってる。アルティは何も気にすることないよ。そもそもアルティ何も悪くないし」


 ユリエの語るソールは、アルティミシアの知る兄とは少し人物像が違う。穏やかで、優しく頭をなでてくれる頼りになるお兄ちゃんより、少しきりっとしている。

 妹と大切な人ではやはり同じ対応というわけにはいかないのだろう。


 アルティミシアは自分がブラコンな自覚はある。いつか兄に大切な人ができた時、兄をとられるような心境になるのかなとなんとなく思っていたが、相手がユリエなこともあるだろうが、まったくそんな気にはならなかった。

 ただただ、嬉しい。


「ストラトス様がおっしゃるとミッション感出るわね。どうやってバラーシュ会長を説得したのか後で聞かせてね」

「まだ成功もしてないのに」

「大丈夫よ。ユリエだって心配してないでしょ?」

「それは、ね。そうなんだけど」

 からかうように笑うレギーナと、真っ赤になっているユリエの会話が微笑ましい。

 ソールからではなく、ユリエから聞こうとアルティミシアは決めた。


「話もとに戻すけど、じゃあユリエも出席なのね? 王弟殿下の、夜会の前のお呼び出し」

 敷布にくるまり直したレギーナを見て、ユリエも敷布を広げて体に巻き付け直す。

 部屋の温度調整はされていて、寒くはないのだが、雰囲気の話だろう。


「うんそう。そんなの同席できないってソール様に言ったんだけど、迎えに行かないのはあり得ないし、その後一人にして待たせるのもあり得ないから一緒にって。王弟殿下の了承はもらってるしアルティもレギーナも同じように呼び出されてるから心配はいらないって」


 レギーナがふふん、と笑う。

「愛されてるわね」

 わかりやすく赤くなるユリエを生温かく見守りつつ、アルティミシアは気になっていたことを口に出す。

「私レギーナも呼ばれてるって知りませんでした」


 レギーナは軽く天を仰いだ。

「呼ばれちゃったのよねー。まあミハイル様とアルティがうちに来てたし? 関わってると言えばどっぷり関わっちゃったわけで、表に出せないことも多いから口裏は合わせておこうってことなんでしょうけどね。最初はうちの父呼んだらしいんだけど、つっぱねたらしくて」


「レギーナのお父さんつよ」

ユリエの言葉にアルティミシアも同意した。国王ではないが、王太子になろうという王族の招集を蹴るとか。強すぎる。

 するとレギーナはひらひらと手を振った。


「確固とした信念があって、とかならまだわかるけど、そういうかっこいいやつじゃないから。あの人脳筋通り越して全身筋肉でできてるような堅物だから、小難しい話し合いには極力近寄りたくないのよ。下手に知らなくていいこと知っちゃうと、大事なところでぼろがぼろぼろ出ちゃうから。だから面倒くさくなって、私を代理に指名しやがったのよ、どうせ王都にいるからとか何とか言って」


 レギーナの毒が猛毒だ。確かにパヴェル辺境伯は融通が利かなそうだった。

 アルティミシアは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 レギーナは、今でさえ『お腹いっぱい』なのに、さらに『詳しい説明』を聞かされて、パヴェル領としての立場(口裏)をまとめた上で、家に周知させなければならない。

 もちろん、ぼろをぼろぼろ出すパヴェル辺境伯にも。


「すみませんレギーナ。私たちが巻き込んだばかりに」

 頭を下げて謝るアルティミシアに、レギーナはああごめん、と笑った。

「アルティを責めてるわけじゃないのよ。私も下手に父から要領の得ない情報を又聞きするよりは、王都にいる以上自分で聞いた方がうまく立ち回れるしね。父の丸投げ方に腹は立ったけれど、それだけよ。ただね」

「ただ?」

「私が困ってるのはエスコート問題。後の夜会にも呼ばれちゃってるのよ、何でか」

明日朝晩2回の更新になりそうです

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