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15. ユリエと出会う

ブクマしてくださった方、ありがとうございます。

人生初投稿で、「まずはやってみよう」的に走り出した今作、

アクセスしてくださっている方にも感謝申し上げます。

思っていた以上に感動・・・

 入学当初。

 クラスは成績順で分けられてはいるものの、生徒のほとんどが貴族のため、入学前からの顔見知りも多い。クラス内ではすぐにグループが貴族同士の派閥で分かれた。

 その時にはもう「ミハイルの婚約者」の情報は流れていたので、腫れ物扱いでアルティミシアは遠巻きにされていた。


 ミハイルと同じグループに入ることはアルティミシア的にあり得なかった。『婚約者同士学内いちゃこら禁止』の不文律もあるが、それでは偏った交友関係しか生まれない。

 一人でいること自体は苦痛ではないので様子を見ることにしていた。


 遠巻きにされていた分、アルティミシアには何の被害もなかったが、ユリエは違った。世界的にも有名な大商会の会長で、一代男爵位を授かった男の娘ではあったが庶民。しかも成績はトップクラスだというので、無意味な選民意識を持った貴族の子女に、教室ではなく学内の見えない所で様々な嫌がらせを受けていたようだ。


 たまたまあまり普段通らない通路を歩いていたアルティミシアが、噴水に沈みゆくかばんを拾おうとしていたユリエを見かけたのが、同じクラスではあったが最初の会話だった。

 夕方で、周りには誰もいなかった。


 ユリエしかいなかったから犯人が単数か複数かはわからないが、状況的に、かばんを奪って噴水に投げ入れ、逃げたのだろう。こういった嫌がらせは計画的にされるものではない。そこにいたから、たまたま通りがかったから、鬱憤晴らしくらいの軽い気持ちで、やる側はやる。


「それは濡れます、さすがに」

 躊躇なく噴水に足を踏み入れようとしていたユリエを、アルティミシアは両腕でユリエの両腕を後ろからひっかけて物理的に止めた。ユリエは突然の羽交い絞めに驚いたようだったが、相手が女子でクラスメイトとわかったからなのか、警戒を解いてこてりと首を倒した。

「んーでも早く取らないと。防水加工したかばんだけど、水がしみこむとまずいから。中の書類も、一応油性のインク使ってるけどね」


 ユリエはされたことに怒ってもいなかったし、悲しんでもいなかったし、アルティミシアに止められたことにも怒ってはいなかった。

 かばんの中には大事な書類があるのだろう。そのことだけを心配していた。

 それは諦めにも近い。すれ違いざまに理不尽な悪意をぶつけられることが、日常だからと。

 腹を立てても仕方ない、と。


 あっけらかんというよりは淡々としたユリエの態度に、アルティミシアの中にあるアトラスの、勇者に選ばれる前の羊飼いだった時の記憶が反応した。

 ただ珍しい色を持って生まれただけで『魔族混じり』『異形の子』として忌避された、アトラスの記憶。


「わかりました」

 アルティミシアはユリエの体を後ろに引いて、ぽんと噴水から遠ざけるように優しく放した。

 そのまま躊躇することなくざばざばと噴水に入っていって、水中で揺れるかばんを取り出す。

 夕方で日が落ちかけていたこともあって、やはり少し水が冷たい。あと丈の長めの制服のスカートが水を吸って重い。


「ちょ、何やってんの! 濡れますって止めたのはあんたでしょうが!」

 焦ったように駆け寄るユリエに、アルティミシアはよいしょと噴水のふちをまたいでかばんを渡した。

「中身をご確認ください、バラーシュさん」

「ありがとう・・・っていや、何で私の名前知ってんの」

「私アルティミシア・ストラトスと申します。同じクラスですよ?」

「知ってるよ! 有名人だよ! あんたが何であたしなんかの名前知ってんの」

「同じクラスなので・・・っくしゅん」


 話す間にも、ぼたぼたと水滴は落ち、足元が冷えていく。寒さが下から這いあがってくる感覚がして、ふるりと体を震わせた。

「ああああ保健室! 保健室行こう! 着替えを借りよう」

「その前にバラーシュさん、かばん・・・」

「後! 後で確認する! もう水には浸かってないから。いいから! 保健室! 風邪ひく!」


 ユリエの声に、周りには人が集まり始めていた。

 これでいい。

 アルティミシアは頭を動かさず、目線だけで周りを見渡した。

 良くも悪くも、アルティミシアは何もしていないのに有名人。薄暗がりの中でも、この珍しい色も手伝って、ここでずぶ濡れになっているのが誰なのか正しく判別してもらえるだろう。


 アルティミシア(ミハイルの婚約者)・ストラトスが何らかのトラブルに「巻き込まれた」ことは、周りに認識させることができたはず。 

 アルティミシアはユリエに腕をひかれながら保健室に向かった。

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