表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/71

14. 学院生活

 アルティミシアは、数か月後にメルクーリ本邸に移り、王都の学院に入学した。

 王立の学院は、建前上生徒間で身分差がない、とされている。

 学費と学力があれば誰でも入学できる。通学には制服着用で、アクセサリーの使用も禁止されているため、見た目でもそう変わらない。


 が、入学試験を受けられるだけの学力を得るための時間と費用と、通学中にかかるそれなりの学費は、一定以上の富裕層しか持ち得ない。

 学院も、結局は貴族社会の縮図だった。



「そろそろお昼にしませんか、ユリエ」

 アルティミシアは同じクラスで仲のいい少女に声をかけた。

 教室には、もう生徒がほとんど残っていない。

 ノートに数字を書きなぐっていたユリエは、はっと頭を上げた。

「あれ・・・?」


「授業、とっくに終わってるのよ」

 アルティミシアの隣にいたレギーナが苦笑しながら小さく息をついた。

「ああっ、ごめん! ごめんね! 行こう! お昼!」

 ばたばたとノートと帳簿と筆記用具をしまって、ユリエが立ち上がった。

 3人で食堂に歩き出す。


 入学して少しした頃に仲良くなったユリエとレギーナ。この2人が、アルティミシアがいつも一緒にいるクラスメイトだった。

 ユリエは両親が事業に成功し、一代男爵位を叙爵した商人の娘で、いつも授業の合間に、いや授業中に、家業を手伝って帳簿をつけたり検算したりしている。レギーナは武人を多く輩出する辺境伯家の七女で、家は名門ではあるが王都に近くないため、派閥のどこにも属していない。


 入学試験で成績の良い順にクラス分けがされる。もともと勉強が好きでその環境もあったアルティミシアは、入学前に住まいとなったメルクーリ家の本邸で試験勉強もしたが、学力はその時点で問題がなく、クラスも一番いいクラスに分けられた。

 同じクラスにはもちろんミハイルもいる。


 学院の生徒は貴族の子女がほとんどで、留学生や裕福な商人の子女が少ない割合を占める。

 ミハイルとアルティミシアの婚約お披露目はデビュタントを待ってから、ということになっているので公にはなっていないが、貴族割合が高すぎて、それは公然の秘密と化している。


 そもそも生徒に貴族の子女が多いということは、ミハイルとアルティミシアに限らず婚約者同士が同じ学年、同じ学院、というのは正直珍しくもない。

 学院内では婚約者同士のいちゃつき禁止。というのが不文律。


 ミハイルとは同じ教室で毎日顔を合わせているが、学院内で二人きりになることはない。

 そして帰る場所も本邸と別邸で分かれており、休日はお互いやることがあり忙しく、予定が合わずになかなか会うこともない。


 ミハイルは不満を隠していないが、アルティミシアにとっては公共の場でミハイルと自然な会話ができたり、他の人と話している様子を見ることができたり、いろんな一面が知れて、学院に入学できてありがたいと思っている。


 食堂はビュッフェ形式で、食費は学費に含まれているため、営業時間は限られているが食べ放題だ。

 家の専属料理人が作った豪華弁当しか食べない、という家もあるが、ほとんどはみんなこの食堂で食べる。

 だから出遅れると、非常に混みあっていて、席取りが難しい。

「シア」

 食堂の入り口で、空いた席を探す3人に声がかかる。見ると、ミハイルがこちらに歩いてきている。


 親しい人はアルティミシアのことを「アルティ」と呼ぶが、ミハイルが自分だけの呼び名が欲しいと言って付けたのが「シア」だった。本当は愛称的には「アルティ」か「ミーシャ」になるのだが、「ミーシャ」はミハイルの愛称とかぶってしまう。ミハイルもアルティミシアも「ミーシャ」呼びは自分で自分に愛称で呼んでいるようで気はずかしいので、封印している。


「俺たちもう食べ終わるから、席使って。ワンプレート持ってくるまで待ってるから、取っておいで」

 ミハイルは自分たちの食べている席を指さした。ミハイルといつもつるんでいる3人の友達は、クラスメイトで顔見知りだ。こちらにひらひらと手を振ってくれる。


「ありがとうミハイル」

 アルティミシアが彼らに手を振って応えた後ミハイルに笑いかけると、ミハイルもやわらかく微笑んだ。

「「ありがとうございます」」

 アルティミシアの隣にいた2人も礼を言って、料理を選びに行った。


 同学年の生徒同士は一応敬語不要ということになっていて、不敬を問われることはないが、逆に話しづらいらしく、2人はミハイルに様付けで敬語を使う。

「慣れないわ~」

 ユリエが空のワンプレートを3枚取って、2人にそれぞれ渡した。


「何がですか?」

 アルティミシアがトングで料理をつまみながら尋ねる。

「顔の圧が」

「ああ、確かにね」

 ユリエの言葉にレギーナが同意する。


「正面からあれをくらうと一瞬正気を失うというか」

「くらうとか、言い方」

 ユリエの言いようにレギーナが軽めに諌める。そんな2人にアルティミシアもくすりと笑う。乱暴な言葉遣いと言えなくもないが、悪気がないのはわかっている。


「アルティが平気なのがむしろ不思議なのよ、幼馴染で見慣れてるってわけでもないでしょうし」

 レギーナの言葉に、アルティミシアはうなずく。

「幼馴染ではないですね」


 ミハイルと出会ってからまだ1年経つか経たないか。その間にミハイルはぐんぐん背が伸びて、顔立ちも少し大人びた。アルティミシアからすると記憶にあるイオエルの顔に近づいていることになるためさほど違和感もないのだが、周りに与える影響はやはり大きいようだ。


 婚約者であるアルティミシアがいるせいか、学院内で表立ってミハイルに言い寄る女生徒も見かけないが、なくはない、らしい。基本的にミハイルは、アルティミシア以外の女性に貴族の笑み以外の笑顔を見せない、らしい。レギーナから聞いた。


 学院に入学したら、嫌がらせの一つや二つ、三つくらいはされるだろうとどきどきしていたが、ミハイルのそういった姿勢が徹底しているおかげなのか、これと言った嫌がらせは学院に入学してから、まだ一度もない。


 ユリエにはあった。それは、入学してすぐの頃。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ