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出発の朝

色々前置きありましたが、ようやく出発の日を迎えました。果たしてお嬢様は順応してくれるのか……。

 町中を少しだけ注目を浴びて進む僕たち。冒険者なんて珍しくはないし、馬車だってそこそこ往来している。だから、特に何が珍しいワケではないんだけど、僕たちが注目を集めちゃう理由は、前にも話したあの北の塔の攻略があったからなんだよね。中にはその時のことを聞きたがる住人もちらほらいる。

 リードとノイズが何やら愛想を振りまきながら、僕たちは進んでいた。

 さして広くもないこの町、僕たちがいた宿から東の外れまでは、今から歩くとお昼前には十分に到着できる。洞窟までだと、ちょっとだけ町の外を歩くかたちになるから、きっとモンスターも襲ってくるようになるね。

 町の中にまでモンスターが侵入して、襲ってくるなんてことはそうそう滅多にあるもんじゃないんだ。

 モンスターだって、人間たちの住処にまでテリトリーを広げようなんて思わないんじゃないかな。でも本当の理由はちゃんとあって、それぞれの町には、規模こそ違うけど、教会の白魔法の効果があるからなんだよね。

大抵は町を取り囲む塀や壁、小さな、見えないような杭やなんかで町のエリアが区切られてるんだけど、その中にだけ、モンスター避けの白魔法がかかってるんだ。だからそう滅多なことでは町中でモンスターを見かけることはない。……ハズなんだけど。


「ちょおっとおっ! なんでこんなところにモンスターが出るのよっ!」

 叫びながら回し蹴りを一発。見事にヒットした一撃は、ノイズ目がけて襲いかかってきていたモンスターを勢いよくはじき飛ばした。そしてそれは僕の方へと向かって来る。

 けど、もう呪文詠唱も完了! カウンターを喰らわせるように発動させる!

「プラズマ・ブラストっ!」

 バリバリバリバリ……ガウンッ!

 雷の力をまとった魔法の玉が、吹っ飛んで来たモンスターに直撃! モンスターは黒こげになって、あっという間に灰になる。……ちょっと強力すぎたかな……。

「おいルシア! あんまり派手なの使うなよ、町に被害が出る!」

「あ、ごめーん」

 襲ってきたのはこの一体だけ。どこから迷い込んできたのか知らないけど、町の白魔法結界を突き破って入ってきたくらいだから、もしかしたら強いのかもと思って強力なのを選んでみた……だけど、あんまり強くなかったみたい。

 適当に謝って、僕は町並みと、遠巻きに見ている野次馬と、そしてたった今僕が灰にしたモンスターだったモノを見比べる。

 町並みは無事だ。どこにも損傷はない様子。そして、目の前の灰の塊も、もはや少しずつ風に攫われて消えかけていた。

 言い訳になるかもしれないけど、この魔法を使ったのにはちゃんと理由があるんだよ。

僕は炎系列と水系列の魔法が割と得意なんだけど、それだと後々町の中にもその痕跡が残る。炎の魔法なんか使って町が火事にでもなったら大変でしょ? それに、その魔法でやっつけたモンスターの残骸が残っても、見た目的に気持ち悪いし、後片付けが大変だから。この魔法だと、見た目も派手だけどこれだけの威力があるし、灰にまで焦がし尽くしちゃえば、後始末をすることになっても、そんなに抵抗ないし。……多分。

「町の方は大丈夫のようですね」

 同じように辺りを見ていたクリストが言う。

「うん。そんなに広範囲に影響する術じゃないからね。ミルス、大丈夫?」

 と、今の騒ぎでも動じなかった馬車の中のミルスに声をかける。恐る恐る馬車から顔を覗かせていたミルスも、どうやら戦闘の様子を見ていたのだろう、こちらに向き直って頷くだけで答えた。若干顔が青ざめているように見えるのは、気のせいだろうか。

「さすがのお嬢様も、モンスター見たのは初めてなんだな?」

 御者席からは降りずに、状況を見ていたリードが言う。リードが戦闘に参加しないなんて、かなり珍しいことなんだけど、馬が暴れだしても困る。実はリード、馬車とか馬の扱い、何気に上手いんだよね。

「ちょっ、当たり前じゃない! なんであたしがモンスターなんかと戦う場面にいなきゃならないのよ!」

 びっくりしたのか怖かったのか、勢いに任せてミルスが怒鳴り返した。

「ねえミルス、これから町を出て洞窟に入ったら、こんなもんじゃ済まないけど、それでもやっぱり行くの? 今ならまだ間に合うよ?」

 僕は、他意はなく率直に聞いてみた。ミルスは僕の顔を見て、何やら考えるふうだったけど、ふるふると頭を振るようにして応えた。やっぱり行くというのだろうか……顔、まだ青いけど。

「行くわ。だって、またモンスターが襲ってきたって、あなたたちが戦って、あたしを守ってくれるんでしょ? こっちは信用して依頼したんだからね!」

 怖がっているのを隠すかのように、一気にまくしたてる。こっちはそろってこっそり溜め息。苦笑まじりで顔を見合わせ、改めて馬車を進ませる。

「仕方ないコね……」

「仕方ありませんね。さて、彼女を護衛しながらの冒険です。気を抜かずに行きましょう」

「そだね」

「よっしゃ、行くぞ!」

『おうっ!』

 改めて出発。何故か野次馬さんたちから拍手と声援が耳に届いた。


「ミルス、町を出るぞ。覚悟はいいな?」

 一応確認をするリード。

「大丈夫に決まってるじゃない! しっかり守ってよ!」

 やっぱり馬車から顔を覗かせ、半ばヤケクソ気味に怒鳴り返すミルス。そしてそのまま、町のエリアから馬車はするりと抜け出した。

途端に空気が変わる。

モンスターの臭いとか、獣の気配とか。町の中にいては分からない感覚だ。ようやく、僕たちも『冒険』っていう言葉を実感することができる。

「う……なんかドキドキする……」

 整備されていない道なき道を洞窟へと向かう途中、馬車の音に紛れてミルスが小さく呟くのが聴こえた。

 馬車の方を覗いてみると、リードが座る御者台の奥から外を覗き見ているミルスの顔が見えた。その奥に、僕とは反対側を歩くノイズの顔が見えた。ノイズにもミルスの声が聞こえたのかな。僕と目が合うと、小さく肩をすくめてみせた。

 目指す洞窟までの距離はさほどない。だけど、それまでの間に、草原に棲まうモンスターがいるはずだ。思った途端。

「来るぞ」

 不意に馬車を止めて、リードが小さく、だけど鋭く伝える。

「右よっ!」

「クリスト、結界! 馬車を守っててくれ!」

「はい」

 言うなりクリストは防御結界の呪文詠唱に入った。僕も、攻撃魔法を唱えつつ、杖を構え直してノイズたちの後方支援に回る。

  ガサっ

「来たぞ」

 にわかに緊張が走る。背丈の高い草むらの陰から現れたのは、凶悪な雰囲気のイノシシみたいなモンスター。でもイノシシじゃないのは確かで、それには巨大な牙と、刃物みたいな巨大な尻尾が生えていた。四つの足にも凶悪な爪。大きさは、大人三人分よりも大きいくらい。逞しい体つきをしていた。

そいつは機嫌が悪いのか、やたらと荒い息と鋭い赤い目で、僕たちを見据えていた。すでに突進準備万端みたい。

『天より注ぐ光よ 我らを清め護りたまえ』

 クリストが完成した呪文とともに胸元の十字架を空にかざす。十字架から伸びる白銀の光は、一度天高く昇り、馬車を僕たちごと包みこむ。僕たちそれぞれに光はまとわりつき、そのまま僕たちの防御結界となる。

『熱く紅き紅蓮の炎よ 我が意に従い 形を成せ』

 僕の握る杖の先端が、紅く光り熱を帯びてくる。そのまま、タイミングを見計らう。

「ノイズ、行くぞっ!」

「ええ!」

 一声叫ぶように言って二人は互いに呼吸を合わせて走り出す! 同時に、モンスターが突進して来る!

「うらあっ!」

 気合い一閃。自在に伸び、曲がるリード自慢の左腕の剣が、モンスターとすれ違いざまにモンスターの左側の胴を薙いだ!

「リード! 尻尾に気をつけるのよ!」

 叫びながら、今度はノイズが走っていた勢いでモンスターの右側の胴、尻尾に近い部分に渾身のドロップキックをかます!

  どどうっ!

 もんどりうって倒れ込みかけるモンスター。だけど、その巨体は何とか堪え、体勢を崩したままなおも突進してこようとする。甘い!

『バースト・フレア!』

  ゴウっ!

 杖から迸り出る炎の奔流は、狙い通り、突進してきたモンスターを真っ正面から捉えた!

『ギャアォウウッ!』

 断末魔の悲鳴。

「ナイス、ルシア」

「うん!」

 どうやら、今出てきたのはこの一体だけだったみたい。わりとあっさりと決着がついた。馬車も全くの無傷。僕たちも無傷で乗り切った。

「怪我ねえか?」

 リードがメンバーを気遣って声をかける。

「僕は大丈夫。ノイズは? さっきの尻尾にやられたりしなかった?」

「いえ、あたしも大丈夫よ。それよりリード、あんたの方が大丈夫じゃないんじゃないの?」

「え?」

 言ってリードは自分の身体を検める。

「あ……ああっ?」

「どしたのリード?」

 見た目的に大きな怪我は無さそうだし……、本人もいたって元気。だけど、

「俺の服……こんなところに穴が……」

 ………………怪我じゃないんだ。本人も気づかない場所に、見事にさっくりとした切れ目があったらしい。幸い、身体に傷はついていなかったみたいだね。だからノイズからは見えてもリードには見えなかったんだ。

「あーあ……みっともねえなあ……」

 ぼやくリード。きっとあの尻尾に触ったんだね。切られた場所は、彼の左側の脇辺り。自分では、腕を上げて身体をひねらないと見えない場所だ。

「怪我じゃないんだから、そう大袈裟にすることもないじゃない」

 ノイズが呆れたように言う。

「ちょっと」

「ん?」

 険のある声で、馬車の中から声がした。ミルスが何やら馬車の中から顔を出して、こちらを睨みつけるようにしている。

「何? ミルス」

「あなたたち、本当に大丈夫なの? 今のモンスターもあっさりやっつけたみたいに見えたけど……自分の服の傷に気づかないなんて……鈍すぎるわ」

「うるせーよ、自分で見える場所じゃねーし、肌に触ってなかったんだから気づきようもねーじゃねーか」

 自分の服に傷ついたのが相当ショックだったみたいで、邪険に言い返すリード。

「なによ、自己管理ができてない証拠じゃない」

「だったらお前、自分で戦ってみるか?」

「な、何言ってるのよ! あたしは依頼人だって何回言ったら分かるのよ! それにあたし、お腹空いたのよ。お昼はもう過ぎてるでしょ?」

「…………唐突に話の内容を変えるなよ」

 さすがのリードも、これには呆れてものも言えないようだったけど、代わりに正直なお腹の虫が応えた。


お読みいただきありがとうございました。

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