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始まりの来客

随分と久しぶりの投稿になってしまいました。

今回もシリーズ・冒険者の住む町。かなり昔に書き上げていたもので、読み返しながら改稿しつつ。

お楽しみいただけましたら幸いです。

 とある日常。僕たちは冒険に向かう旅空の下じゃなく、いつもの町のそれぞれの場所でアルバイトに励んでいた。

 僕はルシア。ファミリーネームは知らなくて、気がついた時には一人で魔法使いという道を選んで進んでいた。そんな僕が辿り着いた場所は、この町。さほど大きくもないけど、小さくもなく、そこそこに賑わっている町だと思う。そこで、僕は今のパーティメンバーに出会ったんだ。

 戦士のリードをリーダーに、格闘家のノイズ、そして僧侶のクリストの四人。冒険者のパーティとしてのバランスはとれてるはずなんだけど……世の中、そんなに甘くない、ってね。


 僕たちのパーティは、それぞれのレベルがまだまだ低い。ということは、必然的にパーティのレベルもそれなり、ってことなんだよね。冒険っていう仕事だけじゃ、日々暮らしていくのは、実際のところ難しい。だから僕たちは、冒険に出ていない時には、それぞれにアルバイトをしながら日々の生活を送っているんだ。

 僕がやっているアルバイトは、町の魔法使い達が集まる協会で、ちょっとした魔法のアドバイスをしたり、簡単な魔法を教えたりすること。

 ちなみに、リードは荷物の配達。自慢というかほぼ唯一の取り柄である体力を生かしたアルバイトだね。

ノイズは元々、町のホールで踊り娘をやっていたから、今でももちろん踊り娘としてガンガン稼いでるよ。ホールの花形としてもノイズは町の有名人だった。

そしてクリストは、僧侶として町の教会で説法をしていたり、得意とする白魔法を教えたりしている。

 クリストが得意としている白魔法は、簡単に言えば、敵意のない魔法のこと。逆に僕が得意としているのは黒魔法で、敵意でできているようなシロモノで、敵への攻撃しかない。白魔法に攻撃はないんだよ。その他の魔法の分類としては、精霊魔法っていうのもあるんだけど、それは今度説明するね。


 みんなが冒険以外のお仕事で汗を流しているある日のこと、僕はちょっと体調を崩しちゃって……一人、いつも生活の拠点にしている宿で、まずいハーバルティーをいただいていた。

宿屋のご主人が気を遣ってくれて、体調が優れない時に飲むと良いって言われてる植物を煎じてくれたんだけど……これがまずい。非常に。良薬口に苦し、とは良く言ったものだね。でも、ご主人のご好意だし、早く体調も戻したいしで、頑張って飲んでいたんだけど。


 その時、その依頼主はやってきた。


「あなた、あの北の塔のクエストを攻略した冒険者なのよね?」

「…………そうだけど」

 突然部屋をノックしてきて、返事も待たずに(お茶が口の中に入ってたんだもん)ドアを開け、どこか人を見下したような態度で声をかけてきたのは、一人の少女。歳の頃なら十二、三歳。ふわっふわでクルクルの、明るい茶色の髪をして、ちょっとツンとした印象のある女の子だ。着ている服もふわふわで、いかにもお嬢様然とした格好。

 この娘の言う北の塔のクエストっていうのは、以前僕たちが挑戦したクエストで、これが実際かなりレベルの高いものだったんだ。本来なら僕たちが挑戦できるレベル設定だったはずなんだけど……いざ出発してみると、これがかなりとんでもないクエストだったんだよね。

クエストの舞台がこの町の北にある古い塔で、町の人なら誰でも知っているような場所だし、謎も多かったし、ってことで、クリアした僕たちはそれで結構有名になってしまった。

「あたし、エリオット家の娘でミルスよ。あなたたちにちょっとした依頼があるのでここへ来たの」

「僕たちに?」

「ぼ、僕? ……ええ、そうよ。それよりもあなた、女の子よね?」

「そうだけど」

 何となく上から目線の物言いの女の子に、僕はちょっとむっとして応えてしまった。カップを手で弄びながら、彼女の言葉を待つ。

彼女、ミルスはどことなく……いや、あからさまに僕を観察しながら、鷹揚に腕組みをして一言。

「あなた、少しは女らしさ、っていうものを意識したらどうなの? 自分の事を『僕』だなんてあり得ないわ」

 ………………放っておいてほしい。僕はどう答えるべきか考えた。ストレートに『余計なお世話』とかって言っちゃいたいんだけど……仮にも彼女は僕たちに何かの依頼を持ってきた、言わばスポンサーみたいなものだろう。だったら、その依頼主に対して無下に扱うことなんかできないし……。

「む、昔からの癖でね……」

「そう。それより、あたしの依頼の話なんだけど」

 ミルスは意外にも僕の言葉を深く追求してくることはなかった。

「依頼って、冒険者としての?」

「そうよ」

「だったら、他のメンバーが戻ってこないことには……リーダーも留守にしてるし、話はメンバーがそろってからじゃないと進められないよ」

 僕は正直に答える。ここで僕が独断で話を進められないことは事実だしね。ミルスは腕を組んだまま少し考えるふうな素振りを見せていたけど、それからやっぱり鷹揚に一つ頷いた。

「分かったわ。メンバーが全員そろったころに来るから。今日だといつ頃が都合いいのかしら?」

「え? 今日だと……多分夕飯が終わる頃にはみんなこの宿に帰ってきてると思うけど……君は」

「じゃあ、夜にまた来るから」

 言うと、さっと踵を返して少し乱暴にドアを閉めるミルス。僕の言いかけた言葉はあっさりと無視されて宙に浮いた。

 僕が彼女に聴きたかったこと。それは、彼女の家柄のことだ。

エリオット家と名乗らなかっただろうか。エリオット家といえば、この町の権力者の一人。確か町長の補佐を務めるくらいの家柄だったんじゃないかな。

そんな家のお嬢様が、たった一人で護衛もつけずに出歩いて、しかもこんな町外れの小さな宿屋に来て、一体何の依頼だろう。それに、夜にまた来る、って簡単に言ってたけど、お屋敷を抜け出すことなんてできるのかな。でも従者とか引き連れて大所帯で来る、なんて想像しただけでゾッとするけど。

……厄介なことにならなきゃ良いんだけど……


『はあ? エリオット家のお嬢様?』

 メンバーが全員そろって夕飯をいただいたあと。リードたちの部屋に集まって、僕が昼間の話をしたんだけど、それを聴いたメンバーの最初の反応がこれだった。……また見事に全員ハモったね。

「エリオット家っていったら名家じゃねーか。何でまた?」

「あれ? リード知ってたの? エリオット家のこと」

「お前……俺のこと馬鹿だと思ってるだろ」

 しっかりジト目で聞き返されて、僕はわざとらしく目をそらす。他のメンバーも同じこと言いたかったみたいで、申し合わせたように目をそらせている。僕がその台詞取っちゃった。……改めて。

「そう、そのエリオット家のお嬢様で、なんか僕たちに冒険の依頼があるんだって。また今夜来るみたいだけど」

 彼女詳しいことは全然話さなかったけど、どうせまた来るならそれでいいよね。今ならメンバー全員そろってるし。と、思ってると……。

  コンコン。

「来たみたいだね」

 今度はちゃんとこちらの返事を待ってからドアを開けて入ってくる。やっぱり今度も、彼女一人だけだった。

「今晩は。昼間はありがとう。改めてお話しさせてもらうけれど、いいかしら」

 やっぱり有無を言わさない上から目線の話し方。メンバーはみんな呆気に取られちゃって、ちょっとの間言葉もない。

 そんな僕たちを尻目に、彼女はずかずかと部屋の中に入ってきた。でも、この部屋は元々リードとクリストが使っている男二人の小さな部屋。僕たち合わせて五人が居座って話し込むには狭すぎる。僕たち四人だけでも狭いのに。

「ちょ、ちょっと待って。ここじゃ狭いから、下の食堂を貸してもらおうよ」

 慌てて僕が立ち上がって、彼女を制しつつみんなを促す。何やら言いたげなミルスも、部屋の狭さは分かっていたのか、渋々ながら僕に従って部屋を出る。

階下の食堂には、まだちらほらと食事を摂っているお客さんがいた。その人たちから少し離れた席に、僕たちは彼女を加えてテーブルを囲んだ。


短めの序章でした。

ミルスはツンデレみたいな……生意気な雰囲気が出ているといいのですが。

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