金の三角
緑溢れる森を蹴倒し、命を蹂躙する白き巨人たち──
彼らが何をしているのか──知る者は誰もいなかった。
「フー・マンよ!」
鳥の神技使いのミストレルが空を飛び、宇宙から来た巨大なもののその白き壁のような耳に問いかける。
「汝らは何をしているのだ! 地を掘り起こし、空に煙を撒き散らし、わたしのとまり木を奪う! 海を干上がらせ、獣たちから夜を奪うつもりか!」
極彩色の神話の衣服を翼のようにはためかせ、ミストレルは飛び回る。フー・マンたちの行進の、そのあいだを。
「聞こえているのか、この無礼極まりなき宇宙人どもよ! ここは吾が星ぞ! 貴様らの好きなようには──!」
真っ白な巨人の、そのうちの一体の、その手に持つ筒状のガスタンクの爆発の、ただの一噴きに極彩色の鳥は、その羽根を散らした。
∂ ∂ ∂ ∂
風は黄金色──
麦の穂を揺らすまでもなくひとりでに輝く。
その娘はそれほどまでに美しかった。
円を描いて、緑の草原を黄金に染め、惑わせて吹く。
赤の草原も──
青の草原も──
彼女に吹かれてはひとたまりもなく黄金色に染まる。
「アストーリアよ」
褥に横たわる彼女の父親は、酒坏を弄び、酩酊に赤い声で尋ねた。
「おまえはどちらの男を選ぶのだ」
ぴたり、と娘は、絃を鳴らしていた手を止める。冷たい色をした目は熱き太陽を眺めるように遠くを見る。ターバンで隠した輝きをあえかに零して結んだ唇で答えた。
「──神のお導きのままに」
たん、と絃をひとつ、鳴らした。
∂ ∂ ∂ ∂
金色の草原は渦を巻いて、風が二人の男を対峙させる。
身に着けた服装は二人とも、右肩を露わにした短い一枚布の姿なれど、火の神技使いエルモスは赤い髪を逆立て、水の神技使いトレビオは静かに凪いだ表情を、ともに対照的な容貌をしていた。
「トレビオよ。アストーリア様はオレのものにする!」
「今はそれどころではない、エルモスよ。我らの星を荒らしているあのフー・マンたちをどうにかせねば……」
「アストーリア様を手に入れし者は光の加護を得る。その力をもってすれば、フー・マンどもにもオレらの神技が通じるはずだぜ!」
「アストーリア様を物のように言うな。あのお方に頼めば皆にその御加護を授けてくださるはず」
「この決闘を受けろ、トレビオ! どちらが強いか、前々から知りたくもあった!」
「やめろ、エルモス。我らは今、このようなことをしている場合では……」
地響きを立てる無情。
白き靴底に潰され、二人の神技使いは虫螻の如く、その命を散らされた。
∂ ∂ ∂ ∂
「アストーリア! 庭の芝刈り機が……赤天道虫も青蟋蟀もを刈り取った!」
天幕に駆け込んできた男の名は知らなかったが、知悉の二人の男の死の報せに、アストーリアの目が見瞠かれる。
「なん……ですって?」
海からの強すぎる光に輝きをかき消されながら、アストーリアが砂浜を歩く。
楽器は天幕の中へ置いてきた。もう二度と爪弾くことはない。
光の神技使いの女は、そのまま海の中へと輝きを消していった。
永遠に──
∅ ∅ ∅ ∅
宇宙服のヘルメットを脱ぐと、ウィルトン・オーエンスは息をおおきく吐いた。
「この星の重力はあまりにキツすぎるな。地球の5倍はあんまりだ」
白い宇宙服姿の仲間たちも次々とヘルメットを取る。大きな仕事を任された男特有の顔に笑みを浮かべると、順調な惑星開発について語り合う。
「何しろ地球よりよっぽど小さい星だからな」
「地平線が近すぎて異様ではあるが、美しい星だ」
「しかしあの鳥や虫どもはなんとかしないとな。炎や水流を吐き出してきてビックリしたぞ」