"馬を探す"
冷たい朝になった。
春はまだ遠いのか。
廊下のサッシ一面に
結露がへばりつく。
傍らの珈琲の葉が、
ところどころ茶色くて、
寒がっているのは
確かだった。
リビングに行くと、
胸まで炬燵に入り、
寝転んだままの息子が
スマホを眺めていた。
テレビの画面には
どこかの競馬場が
やはり映っていた。
おはよう、と言った。
パドックの馬たちの
艷やかな毛並みが
白く光っていた。
うん、と返ってきた。
炬燵の息子は自閉症で、
言葉を話すことに
散々苦労してきた。
色々なことがあった。
今となっては、
自然に受け止められる。
お互いのリラックス。
それが大事にだった。
助けてもらえると、
感じる瞬間もあった。
それは奇跡に近いような、
巡り合わせだ。って
健常者主体の世の中、
助けてゆかなければ
暮らしにくいだろうと、
いつしか割り切っている。
人は目に見えない力に
思い至るようになる。
人間関係にしても、
経済的なことにしても。
人の悩みをふわっと
改善してくれるのは、
ほんの細やかな、
自分の中のせめぎあい。
何をどう感じとって、
何をどう動かせばいいか。
自分の中にある、
一番走る馬を探している。
競馬の予想をする
寒がりな息子との暮らし。
ありのままを眺めた。
自分に何ができたのか。