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13、鬼

 鬼が出た、という。

「鬼ですか。また漠然とした……」

 見た人は「鬼だ」と思ったそうだ。でも、その身体的特徴をまったく覚えていなかった。わからなかったが、とにかく鬼だというわけだ。そんなはずがあるかと思うのだが、そう思ったのだからしかたがない。

「ロア、鬼ってなんだと思う?」

 フォクが聞いた。無駄に先輩面するなと思いながら、ロアは記憶の引き出しを開けていく。

「人がぼんやりと怖がってる相手よね。障害者とか外国人とか……本人たちからすれば差別なんでしょうけど」

「そうだ。まあ、ざっくり言えば『自分が理解できないもの』だな。自分の常識が通じないと思っている相手、と言うべきか」

「なるほど。よく知らない相手だけどなんか何するかわからなくて怖いって感覚はわからなくもないですね。良いものではないんだろうけど」

「だから鬼は、『僕の思った理解できない怖いもの』という妖怪だ」

 実際、よく知らない人に危害を加えられるかもしれないのは怖い。それがたまたま性別や人種、国籍、職業といった属性を持っていたら、全部怖く見えてくるのはよくある話だ。怖いというのは理屈ではない。それが膨らむと、いつか差別や妖怪という形を持ってしまう。

「ふーん……。で、今回の鬼ってのは?」

「最近、郊外の大きな工場で外国人労働者を入れてね。そこの人とトラブルがあるらしいんだ」

 勝手に部屋を改装したり家賃を払わなかったりゴミ出しのルールを守らなかったり……。

「そりゃダメですよ」

「そう。こちらからすればダメなんだが、問題は間に立って話す人がいないことだな」

「うーん」

「そういう恐怖というか不満が鬼の形になった可能性を考えている。『本当に』人を襲う前になんとかしないと」

「むこうと話し合える、と互いに思えればいいんだろうけど」

「そうだなあ……」




「料理教室はじめますよ。講師は工場で働くみなさんです!」

「ワタシの国での料理を紹介します」

「こちらは家にある材料でできますのでぜひ」

「ではできたら一緒に食べてみましょうか」

 外国人労働者とその家族による料理教室が開かれたのは一週間後の話だ。主催者は市。物珍しげにやってきた地元の人たちに、カタコトの日本語とときどき通訳の言葉が飛び交う。材料をみても味があまり想像できなかったが、そのうちいい香りがしてきて、見たことないような料理ができた。

「あ、鬼が来てる……」

「うん。食べてるな」

「けっこうおいしい。……辛!」

 外国人も住人たちも食べては何かを話そうをしている。言葉がうまく伝わらないと思えば、身振りを交えてなんとか話そうとし始めた。同じように物を食べ生活するとわかったら、思ったように怖いだけじゃないこともわかる。そうあればいい。

 鬼はいつのまにか消えていた。

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