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12、メディアミックスゾンビ

「ロア、何から見たい?」

「『何が』ではなく『何から』ってとこが嫌ですね」

 フォクとロアの目の前には大量のディスクが散らばっていた。どうもドラマや映画の映像ディスクらしい。その他に小説やマンガも大量に用意してあった。

「『ユキヤナギの手』……これ元は小説ですよね。なんかの賞とってる」

「そう、実写化したものだ。名作だそうだよ」

「こっちは『三日月は黒猫集会』。聞いたことあるな。漫画原作だっけ?」

「そう、実写化とアニメ化したものだ。どちらも高評価だな」

「へえ……アニメと実写混じってるけど、原作付きばかりですね」

「そういうことだ」

 フォクは『三日月は黒猫集会』の実写版のディスクを取ってプレイヤーに入れる。この男が映像作品を観る趣味があるとは知らなんだとロアは肩をすくめた。一緒に映画を見る仲ではないのだから当然仕事なのだが、彼は創作物に興味を持たないタイプかと思っていたので意外だったのだ。



「……って倍速なのかよ!」

 倍速どころではない、三倍速だった。画面があちこちちらつくほどに早い。まるで頭に入ってこない。

「内容を見たいわけじゃないからな。違和感があれば止めてくれ」

「違和感って言われても……」

「『絶対ありえない』ものだけ探せばいい」

 そんな間違い探しみたいな……とは思ったがロアはおとなしく画面を追う。

 説明によると三日月の夜に生まれた黒猫は人間に変身できるという話だ。とはいえ猫はマクガフィン的なもので、猫が好きな人間や猫を探す人間、猫アレルギーの人間など猫にまつわる群像劇といった内容らしい。全体的に優しい雰囲気で、あたたかい物語のようだ。

「え?」

 そんな中「絶対ありえないもの」が現れた。ゾンビである。腐った人間の死体のモンスター的なアレだ。猫と人間かほのぼのしている背景に、ゾンビが徘徊している。ときどきこちらを意識したように襲いかかるポーズをとる。

 そこでフォクが映像を止めた。ゾンビは……まだ動いている。

「早く出てきてくれて助かるよ。こいつだ」

 フォクは手を画面に突っ込んで、ゾンビを捉える。ゾンビを握ったまま『こちら』に引きずり出すと、実物大のゾンビが画面から這い出てきた。実写版のサダコか、おまえは。

「何すんだよ!」

「それはこっちのセリフだ。勝手に名作に現れてはクソ映画にするクソやろう」

「なんなんですか、これ」

「……小説とか漫画がアニメ化や実写化したときに恨み節を語っていくやつが妖怪化したもの、かな」

「なんですか、それ……」

 ゾンビはずるずるとその場に体育座りをして「の」の字を書いている。

「だって期待したんですよ! するでしょ、好きな作品がアニメ化するとか実写化するとか! 大好きな作品に声がつくって思ったのに! でも、そのたびに俺たちは期待を裏切られてきた! バカみたいな改変をされてきた!」

「ああ、そういうこと……」

 ロアはなんとなくゾンビの言ってることがわかった。アニメ化や実写化した時に原作からかけ離れた出来の悪いものになる例をいくつか知っていたからだ。長い原作を二十四話にまとめろとかそもそも無理があるもの、時系列を無視して理解ができないもの、キャラクターの心情の表現が誤解されるもの、特定のキャラクターだけに出番が偏っているもの。恨み節とはいわずとも、ガッカリは経験したことがある。

「こんだけ名作って言われるものがあるのに、わざわざそれに出てクソ化させるのはなんでだ?」

 よくわかってなさそうなフォクが聞いた。ロアが頭を振って答える。

「うらやましいんでしょうねえ。ちゃんとしたアニメ化とか実写化が……傍迷惑ですけど」

「だが、媒体が変われば見せかただって変わるだろう? 改変くらい、そりゃあるだろ」

「男キャラを女キャラにして無理矢理恋愛させるのはナシでしょお!」

 首をひねったフォクにゾンビが叫ぶ。歪んだ表情に腐った肉が崩れそうだ。

「そう、か? そうなのか?」

 フォクにはわからないが、どうにもゾンビにとっては絶対に許せないことらしい。

「あと評判はいいけど原作とはまったくの別物だと、どう反応していいか困る!」

「わからん……もう、自分の頭で作って楽しんでたらいいんじゃないか?」

「それは! そうなんですけど! でも!」

「まあ、勝手に名作にゾンビが現れるのはクソとして……あんた、何が好きでゾンビやってるの?」

 ゾンビはにっこりとして手をあちこち動かしながらにやにやと笑いはじめた。

「それは『黒弔の魔報使い』という……ダークな世界観なんですけどね、孤高の少女が弔文を届けにいくってマンガで、人は死ぬんですけどグロくないからオススメできます。アニメは第四次魔法対戦勃発までなんですけどキャラの掘り下げがダメで薄っぺらいので、声優さんは頑張ってたんですけど、やっぱ脚本かいまいちで演出も合ってなくて絵も時々……」

「うん。初対面でこれ言われたらウザイな。気持ちはちょっとわかるところがなおウザイわ」

 ロアが止めようとした瞬間、後ろからこっそり近づいたフォクがコミックスのページでゾンビの頭を挟んだ。

「戒名をつけてやろう。おまえは妖怪メディアミックスゾンビだ!」

「あ、これだ。これ、これ、俺が見たかったのは――」

 そのコミックスこそ「黒弔の魔報使い」。まるでそのマンガの世界に吸い込まれるようにゾンビは消えていった。




「これでよし。処分完了」

「原作マンガも用意してたのがこれですか。……処分するほどでもないのでは?」

「無力化できればと思ったんだが、消えたらそれはそれでいいだろう?」

「……まあ、原作の世界に行けたようだし、いいか」

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