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1、ぶつかりおじさん

 都市伝説、と呼ばれるものがある。それは口裂け女のようにたあいないウワサから生まれるもの、ツチノコのように単なる見間違いから生まれるもの、メリー・セレスト号のように実際の事件や事故から生まれるものなどさまざまだ。人によって語られる根拠のないウワサ話、一般にはそう理解されている。

「で、この駅ですか」

「そうだな」

 首都圏のある駅に降り立ったフォクとロア。二人は都市伝説妖怪管理人である。ロアはメガネを直し、いらいらと資料をめくりながら確認する。

「都市伝説妖怪……四日前に確認。危険度中。処分対象と」

「ああ」

 人のウワサを基盤に実在してしまうもの。それが妖怪だ。いるはずのないものが人の思い込みによってそのように存在してしまう。その中には人に危害を加えるものもおり、処分しなければならない妖怪もいる。

「どういうものなんですか、これ」

「んんーっと、ロア、そこらへんにぼーっと突っ立っていてくれ」

「はあ」

「その目はやめろ。できるだけ『ワタシは手を握られただけで骨が折れちゃいます』みたいな顔してな」

 困惑するロアを置いて、フォクは柱の向こうに行ってしまった。

「なにそれ……」



 少し待ったがなにもないので、きょろっと見回す。フォクのやろう、どこ行った。怒りはともかく、これでいいのかと不安になってくる。

 そう思った時、ドンッと強く男がぶつかってきた。ロアはとっさに避けられなかった。そんなそぶりを見せず、急に進路をずらして肩を当ててきた。男は謝ることもなく、そのまま歩いて行こうとする。メガネのずれた隙間から見た男の姿が、やけにぼんやりとして見える。

「なにすんだ、テメェ!」

 ロアがとっさに肩をつかむ。男がひるむ。まるで本物の人間のようだ。だが違う、これは妖怪だ。

「え、おまえが? うっわぁ、かわいくないなあ……」

 もっとこう、小さいおじさんのような妖怪を想像していたが、全然違う。自分こそ怒鳴られた被害者ですと言わんばかりの表情で、見れば見るほど腹の立つ顔をしている。そのおじさんの背中をフォクが叩いた。

「かわいいから処理しなくていいってわけでもないけどな」

 それからフォクは低い声でおじさんに話しかける。

「あなた、ぶつかりおじさん、ですね。……そりゃー!」

 そして思いっきり、肩をどついた。もはや全力の体当たりだった。その勢いにおじさんは吹っ飛ばされて、床に叩きつけられる。よろけたのをすぐに立て直したフォクはポケットから白い粉を出した。

「おとといきやがれ」

 その背中に塩を投げつける。おじさんはもがこうとしたが、ナメクジのようにどろりと形を失い、そのまま消えてしまった。



「……わたしをおとりにしたね」

「だって俺はぶつかられにくいだろ?」

 たしかに、ガタイのいいフォクには妖怪もぶつかりにくいだろう。

「まあ、どう見てもロアは『か弱い女性』ではないんだけどな。相手を見誤ったようだ」

「一言多いんだけど」

「そうそう、反応が早くていいね」

 ロアがむっとなったが、フォクは気にしないように記録をつける。

「分類名、ぶつかりおじさん。消滅確認」

「あいつら、ベビーカーぶつけおばさんと対消滅すればいいのに」

「やつらだって自分よりヤバいやつと相対したくはないだろうさ」

「自分がヤバいって分かってないのヤバくない?」

 ぶつかりそれ自体は実際にある迷惑行為であるが、これは「なぜそんなことをするのか」「見たことない」「本当にいるの?」「いるんだって」「自分も見た」というウワサから生まれた妖怪だ。人にぶつかることでしか存在を確立することができない妖怪。ぶつかることだけがその存在理由なのだ。

「わざわざぶつかってくる人間とそれしかできない妖怪、どちらが哀れなんでしょうね」

「さてな。どっちも迷惑だ」

 この駅では少し、ぶつかりおじさんの被害が減るのかも知れなかった。

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