隠していた力
目的地に着いたのはクォーフルと話してから20分程経った頃だった。
「着きました!ここが先程言っていた草原です!」
「なるほど…」
かなり広い草原だ。辺りを見渡しても建物は見当たらず、地平線が見える。所々に背の低い木が生えている。ここならば周囲に与えずに俺の力を使うことが出来そうだ。
「じゃ、やろっか。」
カイナが背中に担いでいた斧を下ろしながら言った。
「あたしの職業は『戦士』。スタミナには自信があるからガンガン攻めてきていいよ。」
「わかった。」
「ちなみに君の職業は何なんだい?」
「俺か?俺の職業は…」
俺はニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「『妖術師』だ。」
言うが早いか、俺は火球を造り出す。
「ふーん…初級魔法の『ファイヤーボール』かな?」
次の瞬間、俺は火球を握りつぶす!火花が辺りに飛び散る。
「なに!?」
カイナが驚いて、一瞬硬直する。それと俺は同時に一気に距離を詰め、炎を纏った右手で殴りかかる。しっかりとした手応えがあった。クリーンヒットだ。
「ぐっ…。」
カイナは呻きながらも、咄嗟に後ろへと跳び、距離をとる。が、耐えきれずに地面に膝をついた。
「おかしい…魔法を使うなら後衛職のはず…こんなにパワーがあるなんてありえない…。」
「言っただろう。俺は妖術師だ。前衛だろうが後衛だろうが関係ないさ。そんなくくりは俺にはない。」
俺は続ける。
「『妖術師』は持続に特化した職業だ。『魔法使い』程の威力は出せないが、魔法使いでは使うことが出来ない精神系の攻撃や罠の設置、今のような術を纏った攻撃が出来る。」
「聞いたことのない職業だわ…」
クォーフルが言う。
「当然さ。妖術師は歴史から消されてるからな。…魔法の普及の為に。」
「消された…?魔法の普及…?どういうことなの!?説明してちょうだい!」
「いいだろう。妖術というのは―
妖術というのは魔法と共に発展してきた技術だ。妖術と魔法の大きな違いは一つだけ。それは、魔法は自然界にある魔力を体の中に取り込んで使用するが、妖術は人間の魂を力に変換して利用するという点だ。人々は、この二つの技術を用いて生活をより豊かにしてきた。二つの間に優劣や大きな差はなかった。だが…。200年前にある王が即位した。この王は人間の内面が関係するものが大嫌いだった。人は必ず本音では自分をばかにしていると信じて疑わなかった。王は周りにいた信用できないと感じた臣下を次々に処刑した。そしてその矛先はやがて人間の魂を使う妖術へと向いた。王は妖術を使う人間を牢獄へと閉じ込め始めた。王はたびたび処刑を行い恐怖を植え付けた。やがて妖術を使う人間はいなくなった。
俺のじいちゃんはそれでも妖術を使うことを止めなかった。山にこもり、人との関わりを断ち、妖術を伝え続けたんだ。前のパーティでは妖術師であることがバレるとまずいと考えて力を隠していたんだが…。君達には本当のことを伝えておきたいと思ったんだ。」
「そんなことが…」
クォーフルとルビィは絶句していた。
「長話は終わったか?」
カイナが立ち上がった。目には先程までとは違い、獣のような闘志の炎がともっている。
「さっきは油断していた。本気で相手する。いくぞ!」
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