第6話 第6勇者
二足歩行のキノコが大量に発生していた。
迫りくるキノコを迎え討ち、身動きのできない聖さんとマオちゃんを守る。神様がくれた能力の影響か分からないが、私は自然とそれができる気がした。
ゲームのステータスみたいなものは念じても見える様子も無く自分で現状を整理する。
【武器】
▷オークの石槍
【補助魔法】
▷上級治癒力補助
▷上級精神力補助
▷上級移動速度補助
▷上級防御力補助
【使用中スキル】
▷脚力向上
▷体力向上
▷筋力大向上
改めて考えると凄い身体能力の上昇だと思う、オークの槍も全く重さを感じない。吊欺が聖剣を手にして舞い上がっていた気持ちが分かりそうな自分に気付き、すかさずそれを否定した。
無力は何もできないけど、暴力からは何も生まれない、力の使い方を間違ってはいけない。
「ったく、なんでキノコが歩くのよ」
魔法とスキル効果で想像以上の速さでキノコに接近する。ここは異世界だし、キノコの亜人もゲームでは見たこともあった。だからそういうものだと受け入れて良い気もするが何だか脳はそれを良しとしないようで軽く頭痛がする。
「そうだ、あれはゆるキャラなんだ」
聖とマオちゃんが逃げていたけど、もしかしたら友好的な種族かもしれないのでは?一瞬そんな現実逃避が浮かぶが、すぐにそれは打ち消された。
『カチカチカチカチカチカチ』
『キィィィィィキィィィィィ!キィィィィィ!』
赤のカサに白の斑模様のキノコ、そこに巣食う鋏虫に百足は人の腕程のサイズだろうか。
『…………ロ……………テ………』
虫とキノコの協奏は全身に鳥肌を立たせ、足が自然と止まった。良くわからないが空耳も聞こえる。聖さんの補助魔法で精神の強化をしてもらっていなかったらここまで近付いただけで発狂していたかもしれない。
「あっ」
キノコの足を見てしまった。キノコはそれぞれ違う履物を履いている。つまり、これは…。
『コロシ………………テ』
空耳の内容が意味をもつ言葉として聞こえた。言葉から考えるとキノコは元人間か、知性がある種族だった可能性がある。
あと少しで槍の間合いとなるが慌てて後ろに飛び退り、そのまま息を止めて聖さん達の元へ走る。
『ぽふんぽふんぽふん』
聞き慣れない音に後ろを振り向くとキノコがカサをぶつけ合っている姿が目に入った。たちまちキノコの周囲は赤色のモヤに包まれる。
「胞子!?」
赤色のモヤはまるで意思があるように放射状に収束しながら虚空を彷徨いはじめた。周囲に獲物を見つけられなかったのかキノコ達の上空で赤いモヤが球状に集まり始めた。
何だか良く分からないが、あれはヤバそうだ。
マオちゃんの力が必要かもしれない。
もう少しで二人の所につく、逃げるか、戦うか…。
「状況が変わったので戻りました!
聖さん、大丈夫ですか!?」
「メイお姉ちゃん!
ノゾミお姉ちゃん眠っちゃったよ!?」
「ええッ!?」
思ったより魔力消費の影響を受けているようだ、私もマオちゃんも状況次第で同じ事になる。つまり二人を連れて逃げるなら今しかできない。
「メイお姉ちゃん、キノコに魔法使う?」
「う、う〜ん」
あの赤いモヤがキノコ達の胞子だった場合、下手に触れたり吸引するとこちらがキノコ人間になる可能性があるのではないだろうか?
火炎魔法で焼却できれば良い。でも逆に胞子を拡散させてしまう可能性はないか?元世界のキノコの常識も知らないけど、異世界のキノコはなんでもありな気がする。
「あとちょっと待ってね、良く考えてみる」
「分かったよ!
マオならいつでも大丈夫だからね!」
なんてできた少女だろう。私があの年齢なら今頃泣いて途方に暮れていたかもしれないのに。
聖さんの魔法の力なのか、本来の姿なのかは分からないけど、まだあの子に頼るわけにはいかない。
よし、今は余計なことは考えないでいよう。
現在私達はキノコと吊欺の間あたりにいる。
キノコVS吊欺の構図を作れないだろうか?
「マオちゃん、少し待っててね」
「うん、気をつけてね」
私は槍を持ったままだが光学迷彩を発動し、周囲が見渡せそうな大木の枝を目指して三段跳びのスキルを使用した。意識するだけで身体が勝手に動き、空中で更に2回跳躍するという現実離れした動きで太い枝の上に降り立つ。
補助魔法と能力向上の効果とはいえ、4階建て相当の高さを一度に跳躍した自分の動きに驚愕するも、今はとにかく時間がない、考えるな、動け、少しでも視界を広げるんだ。
『視力大向上』
生い茂る木々の間からまずは吊欺を探す。
…いた、距離としては100m程度だろうか、相変わらず剣を振り回して歩いている。吊欺は多分転移直後の女神像を目指しており、聖さん達が隠れている場所は幸運にも吊欺の進行方向には無い。多分このまま素通りしてくれるだろう。
次はキノコ達、およそ20体程だろうか?
巨石の門からは新しいキノコが出てくる気配は無く門から100m程度進行済、モヤを出してから歩みは止めている様で、未だにカサをぶつけ合っている。キノコと聖さん達までの距離は50m程度だが、このまま動かないなら大丈夫だろう。赤い球状のモヤは相変わらず拡大している気がする、まるで幼い頃に見たアドバルーンだ。
吊欺は歩みを止めず、停滞しているキノコ達に向かっている。良い感じだ、吊欺の動き次第で次の手を考えよう。
ん?
巨石の門の奥に人影が見える。現地人?もしくは新たな勇者か?どうもキノコに気付かず呑気に巨石の門を眺めている。凶悪なこの世界で観光気分な仕草なので多分新たな勇者、第6勇者ではないだろうか。さすがに人相までは分からないが男子学生かサラリーマンの格好だ。
「脳天気な奴、能力が何か知らないけどそれ以上進むと胞子に殺られるんじゃないの?」
神様から転移についての情報を私達より聞いているかもしれない、できれば死なせたくはない。
「あぁ~~もう!次から次へと!」
すぐに大投擲スキルを使用する。
オークの石槍を巨石の門近くの人影目掛け、迷いなくスムーズに投げる。威嚇射撃みたいなものだ、これで危険に気付いてくれないと間に合わない。
『ポポポポポシュンッ!!』
キノコ達の頭上にある球状のモヤがまるで触手を伸ばすように赤色の線を描く。高速で飛翔する石槍の軌道をまるで先読みでもした様にモヤを延ばし絡め取ろうとしたように見えたが石槍は速度を落とすことなく狙い通りの位置に刺さった。
早く危険を察知して逃げて!
「うは!歩くキノコだよ!キノコ!マジ笑える!」
このタイミングで吊欺!?
「赤色のモヤモヤとキノコ、見た目からして毒でしょ?ハイ残念!看破看破!!遠距離攻撃しか勝たん!!」
『音速剣!!乱舞!!』
数え切れない無数のかまいたちがモヤとキノコを切り裂いていく、一瞬にして赤色のモヤは霧散し、キノコは細切れになって散らばっている。
あ…
更にその先、
第6勇者の腕がクルクルと宙を舞っていた…