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フツメンくんとゴスロリちゃん

 何となく。そう、何となく。


 フチがレース加工された黒いB5サイズの手紙にメタルパープルのペンでみっちり書かれた「すき」と、最後の「お弁当食べてください」の手紙を読んで……別に悪い気がしなかった。だから返事を書いた。


──お弁当ありがとう。俺と付き合いますか?


 白い長四封筒に入れたコピー用紙の手紙。色気もクソもあったもんじゃない。


 初めて会った日の、出刃包丁の印象が強すぎて逃げ腰になってたけど、よく考えたら美少女だ。


 個性的な服装だけど。思えば、今まで付き合った彼女も普通とはほど遠い。ありかな? ありだな。


 だから、毎朝駅のホームで俺を待ち伏せしている彼女に会いにきた。


 今日は平日だけど代休だから仕事は休み。そんなこと知らない彼女は、たぶん今日も俺を待ってる。


 山の頂上に腰かける太陽がまぶしくて、眼球の裏側がキーンとする。今朝も、田舎の駅構内は閑散としてた。


 いつもの始発は発車したのだろう。時間が五分ほど過ぎている。来る途中ですれ違った金髪の外人さんに度肝を抜かれて、到着が遅くなった。


 ──それにしても、異世界から来たのかってくらい美形だったな……ずるいだろ、あれは。


 美形に憧れはあるものの、俺は容姿が優れているわけでもなく、身長も平均より少し高い程度。最近はじめたボルダリングのお陰で筋肉はそこそこあるし腹も出てないが、いたって普通のどこにでもいるサラリーマンだ。


 美形を見て、つい自分と比較してしまう程度には、根暗な部分がある。いたって普通の男。


 いや、なぜか少し変わった女性に好かれやすい気もする。


 駅のホームへ続く階段を降りながら正面を見ると、特徴的な丸いフォルムの厚底パンプスが視界に映る。


 一段下りるごとに見えてくる。

 細い足を包む濃い紫のタイツ。

 黒いレースが幾重にも重なったスカート。

 艶のある細かい模様の入ったコルセット。


 ハイネックのブラウス、白い小さな顎、真っ赤な唇にツンと尖った小さな鼻、──そしてイケメンならざるフツメンの、俺だけを見つめる黒い瞳。


「俺さ、今日は会社休みなんだ。だから、時間があったらコーヒーでも飲みに行かないか?」


 俺が言うと、彼女は肩に下げた黒いレザーバックを前に出して、「コーヒーとお弁当、用意してきました」と言った。


 だったら近所の公園か。もしくは、このまま俺の家に持ち帰ろうか。


 アンティークドールのような彼女が、俺の部屋にいる場面を想像しておかしくなった。違和感すごいな。普通の俺と個性的な彼女。



 ──まあ、それも悪くない。



おわり

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