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役立たずの涙


 アルフレッドが私をお姫様抱っこしている。

 信じられない。夢のようだ。

 恐怖とは違う、興奮で体が震えてくる。

 それを私がまだ落下の恐怖から抜け出せないのだと思ったのだろう。


「無理に立とうとしなくていい。このままレオン様のいる教室まで連れて行こう」


 アルは優しくそう言うと、私の体重を自身の胸に預けるようにして抱き寄せた。


(お、推しが! 推しが私を抱きしめている!!)


 こんな夢のような話があって良いのだろうか。どさくさで抱きついてしまえば良いのか、それともこの歓喜のままに、アルの腕の中で気を失ってしまえば良いのか。

 まさか落下したのに天国に昇るだなんて———

 そこまで考えて、私はハッと頭上を見上げた。

 そうだった!スバルはまだ彼を落とそうとした犯人と教室内で一緒にいるのだ。

 スバルの代わりに私が落ちて、もしかしたらストーリーに変化が生じてしまっているかもしれない。

 赤い血文字のBAD ENDが私の脳裏に駆け巡る。


「だ、だめ! 守ってあげるって決めたのに……!」

「あっ、おい!」


 私はアルの腕から身を乗り出し、教室へ戻るため駆け出そうとした。

 駆け出そうとして、顔から地面に突っ込んだ。


「だ、大丈夫か?!」

「い、いたい……。なんでぇ?」


 半泣きになりながら後ろを振り返る。誰かに足を掴まれたと思ったのに、後ろには唖然としたアルの姿があるだけだ。

 なのになんで? 歩けないし、立てないよぉ。

 擦りむいたおデコも鼻も痛いし、謎の心霊現象に襲われるしで、もう散々だ。


「う、うぅぅ〜〜」


 思わず地面に突っ伏したまま、拳を握りしめて泣いてしまう。

 その泣き声にギョッとした様子で、アルが私のすぐ側にしゃがみ込んだ。


「落下の恐怖で腰が抜けてるんだ。歩ける訳がないだろう?」


 慰めというより、荒ぶった馬をなだめるような声音で話しかけてくるが、私は駄々っ子のように泣きながらブンブンと首を振るう。


「うぅっ、余計なことしてスバルの運命変えちゃったかも。サポートキャラなのに……。ま、守ってあげるって決めたのに……。私なんて、私なんて、ただの役立たずよぉっ!」


 うわあああんっ。

 突然の転生に3階からの落下。おまけにスバルの命を危険にさらしている三拍子で、私の緊張の糸はとうとう千切れて、大声をあげて泣き出してしまう。

 アルは号泣する私をしばらく無言で見つめいていたが、力強く私に告げた。


「わかった。スバル殿の命を守れば、お前は役立たずじゃないんだな?」

「え?」


 一瞬何を言われたのか分からなくて、私は泣きながら顔を上げる。

 力強い腕が、再び私を抱き上げた。


「教室へ戻ろう。我が君がスバル殿を守ってくれているはずだ」


 アルは私を横抱きにすると、体重など感じていないかのように駆け出した。

 その軽やかな身のこなしは、白髪もあいまってまるで白馬のようだ。

 私は前方を見つめるアルの赤い瞳を、涙に濡れた顔のままでポカンと眺めていた。


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