落っこちた先に
激しい突風に激突され、私はスバルの代わりに3階の窓の外に押し出された。
(ばかばかばかぁ〜〜〜〜!!!スバルとビリーが仲良くなるきっかけだったのに!!スバルが窓から落ちる寸前で、ビリーが助けたのがきっかけだったのに!!)
そうなのだ。ゲームではスバルは窓から落ちそうになるが、前の席のビリーが間一髪で助けて事なきを得る。誰も怪我などしないエピソードなのだ。
それなのに!
つい体が動いてしまったがばっかりに、代わりに私が落下することになってしまった。
(嘘でしょ?!死んで転生して、また死ぬわけ?!)
前世では感じる余裕もなかった死の恐怖に、私は全身を強張らせる。
その瞬間、教室で響いたものと同じ声が上から降り注いできた。
「アルフレッド!!その娘を受け止めるんだ!!」
「はっ!」
涙で滲んだ視界の端で、素早い影が見えた。
衝撃は激しかった。けれど想像していたほどひどくないし、痛くない。
ただし、心臓だけは痛いほど脈打っている。
そう、心臓は脈打っているのだ。
「い、生きてる……」
思わずこぼれ出た声は、今まで聞いたこともないほど震えていた。
「無茶する娘だ。怪我はないか?」
すぐ真上から落ちてきた声に、我に返る。
白いタイツに包まれた、自分の膝をまじまじと見る体勢。つまり膝と背中を支えられた、いわゆるお姫様抱っこをされている状態である。
助けられたのだ。
全身が恐怖にブルブル震え、顔を上げるのも難しかった。けれど助けてくれた人の顔を見てお礼が言いたい。
私は何とか顔を上げ、そのまま気絶しそうになった。
私を抱えている、白い髪に赤い目をした少年。短い髪を半分撫で付け、もう片方は額に無造作にかかっている。
「アルフレッド・オルフェーズ……」
そう、そこにいたのは私の最愛の推しキャラ、アルフレッド・オルフェーズに他ならなかったのだ。
「なぜ俺の名を……?」
アルフレッドが怪訝そうにつぶやく。
だってあなたは私の最愛の人だから——。
錯乱した精神状態のまま、そう告げたのか告げなかったのか。混乱している私には判断がつかない。
けれどアルフレッドが何か反応する前に、更に頭上から声がした。
「よくやったぞアル!その娘を連れて上に来てくれ!」
そこでようやく、私は声の主に気付いた。
この艶のあるバリトンボイス。燃えるような赤い髪に、ペリドットのような美しい緑の瞳。
私の最愛の推しキャラの攻めになってほしいと切望している人。
レオン・イザヤ・アレクサンドだ。