嵐は突然に
私たちはスバルの教室の扉を開け、彼のために用意された席へと向かう。
フリフリメイド服で明らかに生徒じゃない私たちが入ってきても、クラスメイトたちは気にした様子もない。
使用人がいて当たり前の生活をしている者ばかりなのだ。使用人丸出しの格好をしている私たちは、生徒たちの違和感の対象にはならない。
むしろ生徒たちが注目して見ているのは、スバルのバイオレット色の瞳だ。
(みんな育ちがいいから露骨に見てこないけど、めっちゃ視線感じる)
チラリとスバルを伺うと、やはり視線に気付いているのだろう。複雑そうな顔をしている。
(かわいそう! とにかく早くビリーに会わせてあげなくちゃ!)
謎の義務感にかられ、私は一番後ろの窓側の席に進む。そこがスバルに用意された席なのだ。
そして、その前の席には……。
(いたーーーー!!! ビリー・パーカー!!!)
つまらなそうに窓の外を見つめる少年が座っていた。
明るい茶色の髪に、同じ瞳の色。キャラデザインでは活発さと優しさを兼ね備えたような表情をしているものが多い。
けれど今のビリーはどことなく沈んだような表情をしている。
(あれぇ? ビリーって最初こんなんだっけ? やば、最初の方のストーリー忘れちゃってるかも)
中盤ごろの主人公の親友をやってるビリーの印象が強すぎて、最初の頃の設定が吹っ飛んでしまっている。
(何がきっかけで仲良くなったんだっけ?)
頭をひねった瞬間、私は重大なことを思い出した。
(そうだ……! 仲良くなったきっかけって……!)
スバルは案内された自分の席に座るため、椅子をひいているところだった。そしてスバルの真横にある窓は———全開になっている。
(あ……、ダメ……!)
「やめろ!!」
突然教室に男の声が響き渡った。
激しい突風が教室内に渦巻く。その力の目指す先は。
考えるより先に、私は全力でスバルを突き飛ばしていた。
「アンジェリカ!!」
アイリスの悲鳴が聞こえる。
息が止まるほどの衝撃が全身を襲う。私は突然の突風に激突され、そのまま開かれた窓の外へと押し出された。