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駆け出せ! 向かう先はトラブルだ!


「【氷の礫よ!】」


 結界に弾き飛ばされた高温度の石飛礫を、すぐさま氷結の呪文で無効化する。

 常温に引き戻され、さらに細かく砕かれた小石がパラパラと私たちの頭上に降りかかった。

 一体何が起こっているのか訳も分からず、私たちはただ突然の爆発と、神殿から昇る紫の光を唖然として見つめる。

 けれどフェリシア皇女だけは素早く手綱を引き絞っていた。

 それに目ざとく気付いたレオンが声をあげる。


「姉様!? 一体どこへ行く気です!!」

「グレイソン兄様がまだ神殿にいるはず! 私は兄様を探しにいくから、レオンあなたは街へ戻って住民の避難を誘導しなさい! けれど決して無茶をしないように! 退路は必ず確保して、無理ない範囲で撤退しなさい!いいわね!!」


 そしてそのまま有無を言わさず矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「ウォーレン、レオンを頼んだわよ! ヒューイ、ドミニク! 私に続け!!」

「だめだ姉様! 行かないで!!」


 レオンの悲鳴のような声を無視し、フェリシア皇女は馬に激しく鞭を打った。馬が嘶き、そのまま勢いよく神殿へと向かって走り出す。


「姉様!!」

「レオン様! あなたは追ってはなりません! 街に戻って市民を避難させるのです!」


 後を追おうと手綱を手繰り寄せるレオンに、護衛の騎士たちがその道を塞ぐようにして立ち塞がる。


「グレイソン兄様と姉様が危ないんだぞ!」

「それでもです! 貴方までその危険に飛び込んでどうするのです!」

「危険に瀕している市民を守るのも、皇族として大事な行いでしょう!」


 苛立ちのまま騎士を叱責するレオンに、そうはさせじと騎士たちが一丸となって呼び止める。レオンの皇族としての自覚が、今すぐにでも走らせたい馬の足を止める。

 苦しげに神殿と街の方角を見比べた後、レオンは私に目をやった。


「お前」

「え?」


 あまりにも場違いなタイミングでレオンに声をかけられ、すっかり傍観者の意識でいた私は慌てて顔を引き締めた。


「友人を探していると言ってたな」

「え。ええ、まぁ」


 なぜ突然そんな話に。

 戸惑いも隠せずに、私はおずおずと頷いた。


「その友人、僕が探してやる」

「えっ!? ほ、ほんと……、」

「ただし!」


 思いがけぬ申し出に、前のめりになるが、続くレオンの言葉にピタリと体を静止させる。


「ただし、この件が片付いてからだ。そのあとにお前の友人は僕たちで探してやろう。その代わり、お前は姉様を追いかけろ」

「えっ!? わ、私が!?」

「レオン様!? なぜ見ず知らずの娘を?」


 私の混乱はもとより、周りの騎士もざわめく。当然である。


「さっき、防御と攻撃の魔法を瞬時に使っていただろ。騎士たちよりも早く」


 トラブル続きで危機察知能力が敏感になっている自覚はあった。けれど、騎士の皆さんより早く魔法を展開したのはただの偶然にすぎなくて、私はなんと言ったら良いものかと眉を下げる。

 その私の仕草に何を思ったのか、レオンは緩く手をあげ、押しとどめるような仕草をして見せた。


「いい。お前が何者なのか、今は詮索する気も時間もない。ただ、お前が僕たちを害する気があれば、僕らに結界なんて張らずに見殺しにすれば良かっただけだ。そうしなかったということは、今僕たちに利害関係はないと言うことだ」


 そうかもしれないが、ついさっき自分で利害関係を生み出す発言をしたばかりじゃないか。

 そんなツッコミは現実世界ではともかく、今この精神世界で騎士に囲まれている皇族相手に言うことではない。

 私はぎゅっと口を真一文字に結んだ。


「いいか、お前は姉様たちを追って、姉様や兄様に危険があればその魔法を使って助けるんだ。姉様たちが無事に帰ってきたならお前の友人を探してやろう。だがもし姉様たちの身に何かあれば、僕はお前もその友人も処分する」

「な!!」

「反論は受け付けない。ウォーレン! この娘をお前の馬に乗せて姉様たちの後を終え! 他の者は僕と一緒に街に戻って救助活動を行う!」

「はっ!」


 見事に息の揃った返事と共に、レオンたちは街へと向かって馬を走らせる。


「えっ!? ちょっ、嘘でしょ!? そんな無茶苦茶な———!!」

「いくぞ娘!」

「えっ、うわっ!?」


 あまりに一方的な宣言に、去り行くレオンの背中に手を伸ばすが、その手が何かを掴むよりも先に、腰のエプロン紐を背後からがっしりと捕まれ、体がぶわりと宙を浮く。

 次の瞬間には、ずた袋が勢いよく荷馬車に乗せられたような音を立てて、私は馬上の人となっていた。


「今からフェリシア様を追う。スピードを出すからしっかりとしがみ付いておけ」


 背後の頭上から降ってくる声に首を回すと、ウォーレンと呼ばれたあご髭を生やした中年騎士が私の後ろから馬の手綱を付かんでいた。ウォーレンが私を無理やり持ち上げて、自分の馬に乗せたのだ。


「ちょっ、ちょっと待って! 私何が何だか」

「私だって何故君を乗せて走るはめになっているのか分からん。とにかくフェリシア様の後を追う。君はレオン様に言われた通り、その魔法で皇女様たちを守るんだ」

「え、えぇ?」


 もうそれ以上話していると舌を噛んでしまいそうで、私は慌てて舌を奥にしまい込んだ。

 けれど胸中では焦りが渦巻いている。私はアルを探しているのであって、こんな昔に起こった出来事のトラブルに巻き込まれてる場合じゃない。

 それでも私が左手に持っていたレオンの記憶の温もりは、過去の彼から離れた今も、未だゆるく熱を帯びたままだ。


(過去のレオンと遭遇した時ほどの熱はなくなってる……。でもこれではっきりした。これはアルの心象世界が作り出した幻影なんかじゃなくて、実際に過去にあった出来事なんだわ)


 現実世界のレオンが、自分の記憶を連れて行くよう言ってくれて良かった。

 そうじゃないと、アルの心象世界なのか、それとも過去の記憶なのかも分からずに、もっと混乱していたはずだ。


(それに、この世界にレオンの記憶が反応してるなら、二人の記憶が混じってることになる。それならこの記憶の層のどこかにアルは絶対にいる!)


 向かうはレオンの兄姉がいる、紫の光に包まれた神殿だ。何かが起こっている事は間違いない。

 けれどそこにアルフレッドは居てくれているのだろうか。

 私は激しい揺れに振り落とされまいと、ひっしと馬のたてがみを掴んだ。


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