いざ、精神世界へ
アルフレッドたちの元へと駆け出すスバルの後ろ姿を見送り、私たち3人は改めて互にやをやった。
「アンジェリカは体、体力共に損傷が激しい。アイリス。消耗しているのは君も同じだが、精神の道掛けをやってもらうことになる」
「かしこまりました」
「アルの精神を連れて帰る役は……、本来なら奴の主人である私の役目だが、アンジェリカ、君に任す」
「分かったわ」
「君たちの方が理解しているとは思うが、他人の精神世界に長時間居座ることは危険だ。アンジェリカ、私の記憶を持っていくと良い。精神世界では人の姿が変わることもあるんだろう? 幼少期のアルの記憶は役に立つだろう」
「皇子、記憶の一時譲渡は厳選できない。アルの幼少期の記憶だけじゃなくて、その時の皇子にまつわる周辺の記憶も私は見てしまうかもうしれないけれど、それでも良いの?」
上級者であれば、その範囲を限定できるかもしれないけれど、所詮基本の範疇を習得しただけに過ぎない私にそんな芸当はできない。
もしかしたらレオンの知られたくない秘密まで覗いてしまう可能性もある。
「……構わん。それでも私はアルフレッドを取り戻したい」
「……!!」
「どうした! 傷が痛むのか?」
思わず胸を押さえて丸まる私に、レオンが慌てたように体を支えてくる。それにゆるく首を振ることで答えながら、ときめく胸を抑え込む。
(こんな時じゃなきゃ、死ぬほど萌える発言なのにっ!)
今はときめいてる場合でも、その発言に言及する時間的余裕もない。
全てが終わったら、全てが収まったら、絶対に2人の感動の再開をこの目に焼き付けてやる!!
心の底から燃え上がる闘志を感じながら、私は強くレオンの手を握った。
「必ず……、必ずアルは私が連れて帰ってくるから!!」
「アンジェリカ……!」
私のギラつく目を見つめ返しながら、レオンは私の手を強く握り返す。
「アルフレッドを……、頼んだぞ」
「……っ! 任せて!!」
そして絶対にあなた達の熱い感動の再会をこの目に焼き付けてみせるから!
私の荒くなった鼻息に気付くことなく、レオンは柔らかく微笑んで頷いた。
「スバルは……上手く気をそらせているようだな。この短時間で力を操れるようになったスバルは大した才能の持ち主だ」
アルがオッドウェルに飛びかかろうとするたび、スバルが攻撃を牽制する。オッドウェルがその牽制を味方につけて攻撃を仕掛けると、致命打が入る前にアルが交わしやすいよう目くらましを入れている。
どちらにせよ、2匹のフラストレーションは高まる一方だ。
「このままだと、いつスバルさんに攻撃が向くか分かりません。アンジェリカ、用意は良い?」
「アイリス。準備万端。いつでも大丈夫!」
私を中心に、私たち3人は手を繋いだ。そっと目を閉じる。
アイリスがアルに精神の道を掛け、私はレオンの記憶を連れてその橋を渡るのだ。
『【定立者よ。水平線上に立ち昇る赤き塵。海岸沿いを渡る舟。頭上にかかる狼の尾よ】』
一緒に詠唱しているはずなのに、声がだんだんと遠くに聞こえる。
アイリスとアルの間に、目に見えない道が掛かり出し、そして私の意識がその道を進み出したのだ。
レオンも言っていたように、アルの精神世界に居られる時間は少ない。長く居座り続ければ、私の自我は保てなくなって、そしてその影響は道を作るアイリスにも伝染する。
私は強く左手を握りしめた。
閉じた瞼の奥でも感じる、左手にあるほのかな灯り。レオンの幼少期の記憶だ。
「アル! 隠れてないですぐに出てきて! あなたが守りたい主人はここにいるんだから!」
暗闇の中、激しい強風が舞って私はゆっくりと気が遠くなっていく。
次に目覚めれば、そこはアルの精神世界だ。
アルフレッド・オルフェーズ。
ゲームの中では何の情報も明かされなかった私の推しの1人。
彼の精神世界なんて想像もつかない。でも、そこからアルの理性を連れて帰るしか方法はない。
(だから絶対に連れ戻すんだ!)
固い決意のもと、私は意識の手綱を手放した。




