一番最高で最強の強度のヤツで
「ううっ」
気を失うというよりも、気が遠のいていたようで、すぐに意識が戻って来るのを感じる。
障壁と隕石との凄まじいぶつかり合いに決着がついたのだ。
障壁は—————、分かっていた事だったけど変わりがない。
今もフィールドを包む紫の光は健在だ。
障壁を崩すには、やはり魔法とは存在が違う聖女の力が必要なんだろうか。
「止まったな」
すぐ近くにいたスバルが小さく告げる。
隕石と障壁のぶつかり合いの事を言っているのかと思ったけれど、そうじゃなかった。
オッドウェルの衝撃波が止まっている。
アルの隕石魔法の衝撃で、オッドウェルの攻撃の手が止まったのだ。
「スバル」
真後ろからレオンの声が聞こえる。振り返ると、障壁のきわにまでレオンとアルが近付いてきていた。
「アルフレッド! あんた、その傷!」
その姿を見てスバルが絶句する。
レオンの隣にいるアルの体は血まみれだった。
服にも血が滲み出しているし、服に守られていない首には、はっきりと鎖が絡みついているのが見える。そして肉を引き絞るように喰らいついている様も。
「スバル聞きなさい、今はアルの心配をする時ではない」
「なっ、こんな傷だらけなんだぞ!?」
レオンの冷徹とも取れる言葉にスバルが反論するが、レオンは皇子に備わった有無を言わさぬ厳しい瞳でスバルを威圧する。
「聞くんだ。障壁を破損させるには攻撃を一点集中させる必要がある。オッドウェルに衝撃波を使わせるな」
「使わせるなって言っても……」
「大丈夫だ。ヤツが衝撃波を使えば、さっきみたいに俺が外部から刺激して攻撃を止めさせる。衝撃波に意味がない事に気付けば、オッドウェルを操るキーラインも戦法を変えて来るだろう」
「アルフレッド……」
血まみれでも表情を変えないアルに、スバルが嫌そうに顔をしかめる。
「言っとくけど、これが終わったらオレ、あんたと勝負するつもりだからな。傷だらけで動き回ったからオレに負けたなんて言い訳、通用しねーからな」
ビシッと指を突きつけてくるスバルに、アルは一瞬驚いたよう目を瞬かせる。
そして若干呆れたような顔つきで、小さく笑った。
「分かった。スバル殿も、石を使い尽くした等と言い訳不要だ」
「ふざけんな。んな言い訳するわけねーだろ」
「もういいか2人とも。アイリス、アンジェリカ。難しいだろうが、オッドウェルの魔法が障壁へ向かうよう2人で撹乱しながら調整してくれ。スバルはそのタイミングを見逃すな」
「分かった」
「分かりました」
「分かったわ」
私たちは改めてオッドウェルに対峙する。
オッドウェルの獣のような形相は変わってはいないが、さっきの隕石魔法の衝撃なのか狂気じみた暴走は鳴りを潜めているようだ。
「作戦はあってないようなもんね」
「でもレオン様のおっしゃった事以外に、何か考えられる事ってあるかしら」
「うぅ〜ん、ない。アイリス、タイミング合わせて行こう!」
「スバルさん、私たちの動き、よく見てて下さいね!」
そして私たちは左右に分かれて走り出す。
私たちの操る魔法はそう強いものでなくても良い。手数を増やしてオッドウェルから攻撃を引き出すのだ。
「【脅威の矢よ!】」
「【凍てつく刃よ!】
邪魔そうに、キーラインによって強化された剣で私たちの魔法を弾いていく。
防御方法が衝撃波による力の相殺ではないことに手応えを感じながら、あまり精神力を使わないジャブのような威力の魔法を放ち続ける。
「【掻き消えろ!!】」
とうとうオッドウェルが魔法を使う。
キーラインの力に彩られた火焔が召喚され、私たち目掛けて放たれる。
私もアイリスも不用意に避けはしない。私たちは障壁ギリギリに半円を描きながら、合流するために走り出す。
互いの背中に火球が迫っているのを見据えながら、私たちは手を取り合った。
『【風の演舞!!】』
風の魔法で一気に真上へ浮上する。私たちの足元で、火焔同士が真正面からぶつかり合い、燃え盛る。
「スバル!」
「おう!!」
スバルのタンザナイトの輝きが、火焔に向かって投げられた小石から放たれる。
これでどうだ!
「だめ! オッドウェルの焔が障壁に直接ぶつかってません!」
それどころか、石を投げて無防備になったスバルにオッドウェルが襲いかかる。
「スバル! 逃げて!!」
紫の刃がスバルに振りかざされた瞬間、激しい揺れがフィールドを襲う。アルフレッドだ。
アルの魔法が障壁に干渉し、再び地震を引き起こす。
オッドウェルの体勢が崩れた隙に、スバルは前転の要領で文字通り転がりながら剣の間合いから距離を取る。
「あぶねっ!」
「スバルっ大丈夫?」
スバルの元へ、私たちも慌てて急降下する。
オッドウェルの追撃に備え防御魔法の準備をするが、オッドウェルは私たちを見てはいなかった。
歯をむき出しにアルに向かって威嚇をしたかと思うと、そのまま飛びかかっていく。
「うおっうおおおおおおおおぉっ!!!!」
剣を何度も障壁に突きつけアルを攻撃しようとするが、強固な障壁がそれを許さない。
「なんだ? さっきからアルフレッドに反応してるのか?」
狂気的な行動にあっけにとられながら、スバルは小石を取り出す。
「今ならいけるか?」
タンザナイトの輝く石が鋭い閃光に変化し、一点集中で障壁と剣の間に放たれる。
だが、障壁に触れるその前に、オッドウェルが反射のように剣でその閃光を弾く。そして、ゆっくりと私たちの元へと振り返った。
「くそっ! 意識こっちに向けちまった」
「落ち着いて。もう一回やろう。次は真正面から障壁ギリギリで真上に避けて見せるから」
「タイミング、合わせていきましょう」
成功するまで何度だって試さなないと。だって成功しない限り私たちの命はないんだから。
走り出そうと足に力を込めた時、スバルが私たちの手を掴んだ。
「スバル?」
「スバルさん、どうしました?」
「……だめだ。2人とももう息が切れてる。それにここに入ってからずっと魔法を使いっぱなしで相当疲労してるだろ。次は避けきれずにオッドウェルの魔法に巻き込まれる」
「私たちなら大丈夫ですよ!」
「そうだよ! それに他に方法なんて」
「ある」
「え?」
「聞いただろ? 結界、何重までかけられるって」
そういえばスバルは結界の強度を知りたがってた。
「あれ、オレにかけてほしい。できるだけ強く、最高強度にして。出来るんだよな?」
「え、うん。完全詠唱の時間をもらえるならだけど」
「スバルさん。何を考えてるんですか」
アイリスの尖った声に、スバルはヘラっと眉を下げて笑う。
「ごまかされませんよ。何を考えているんです?」
「アイリスは変なところで鋭いよなぁ」
困ったようにスバルが言う。
なんだか嫌な予感がして、私も思わず口を出す。
「スバル!」
「【闇夜の飛沫よ】」
「!!」
私たちは反射的にその場から飛び退る。オッドウェルの攻撃が再開したのだ。
「これが一番確実なんだ! アイリス! アンジェリカ!! 一番最高のヤツ、任せたからな!!」
「スバル!!」
言うが早いか、スバルは一気に駆け出した。
オッドウェルとは距離を保ちながらも、タンザナイトを媒介にした遠距離攻撃を仕掛けていく。
こうなっては早く結界を張らないと、スバルの身が危ない。
「アンジェリカ」
「アイリス。分かった」
私たちは詠唱を揃える。
『【玉座の祭壇、掲げる豊作の実。金の腐食土と若草の芽。明け渡された王冠は猛き御名を待ち望む】』
まだだ。まだ放てない。
最高強度の結界にはまだ詠唱が足りない。
『【殉教者の冬、葡萄酒の杯、審判の青、愛の恵み。香炉を灯す柔き手よ】』
オッドウェルの魔法を避けているように見えても、追い詰められているのはスバルだ。逃げ場のない障壁の端へと追いやられていく。
けれど不思議とスバルの瞳に恐怖はない。
私たちを、信じているんだ。
『【青白き太陽が御名の二つ名。刻まれた約束を果たせ、貴い水を飲み干せ、我らに与えられしは、汝の援護なり!!】』
これが私たちに出来る最高硬度の防御結界!
オッドウェルの魔法が放たれるよりも早く、スバルの頭上に金冠が召喚される。
九つの棘が金冠から伸びたかと思うと、凄まじい速度でスバルを囲むように地面へと突き刺さり、金の光を放つ結界が完成する。
「さんきゅー。タイミング、バッチリだ」
言うと、スバルはオッドウエルに背を向けた。
「えっ!? スバル!?」
「スバルさん!?」
スバルの背中をオッドウェルの魔法が襲う。
嘘でしょう!?
結界が攻撃を弾いていくが、その結界を破壊しようとオッドウェルの魔法の威力が更に高まっていく。
金冠の棘が一本折れ、結界の範囲が狭くなる。更にもう一本。
効果が消えるのが早すぎる! 完全詠唱を繰り返す時間が足りない!
『【援護を求める!!】』
省略詠唱で重ねがけするが、焼け石に水だ。省略詠唱ではすぐに効果がかき消され、その間にさらに棘が一本折れる。
このままじゃ、結界が破壊されてスバルが消し飛ばされてしまう!
「スバル!!」
防御結界の中からスバルの声が聞こえた。
「一点集中。これで、文句ねーだろお!!!!」
タンザナイトの輝きを放つスバルの手が、障壁へと叩きつけられる。
スバルの結界を貫くオッドウェルの魔法が、障壁へとぶつかり、激しく光を撒き散らした。
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