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協力体制!!



 オッドウェルに対峙しながら、私たちは脱出の方法を探る。

 スバル1人が助かるんじゃなく、私たちみんなで無事にこの危機を切り抜けるのだ。


「それにはオッドウェルをキーラインの洗脳から解放するのが先決ですね」


 もっともなアイリスの意見に私たちも頷く。

 この強化された障壁から逃げ出すのが難しい今、オッドウェルを洗脳から解いて通常の陣に戻すのだ。

 彼を洗脳から解放できれば、この学園全体を覆っているキーラインの膜も剥がれ、審判たちも目を覚ますに違いない。


「スバル、前にウィンディアナ嬢がキーラインに操られたとき、目を覚まさせたよね。その時どうやったか覚えてる?」

「覚えてるも……、あの時はオレ、ただみんなが騒いでるキーラインってどんなのだろうと思って触ってみただけだ」


 ただ触っただけのキーラインを、スバルは無意識に石を形質変更させてウィンディアナ嬢を救ったことになる。それを意図せずやってしまえるスバルの潜在能力は、凄まじいんじゃないだろうか。


「ん? 形質変更……?」


 ふと、自分の思考に引っかかるものを感じ立ち止まる。

 あの時、スバルはキーラインをラピスラズリに変更してみせた。それはスバルが自分が扱える石へと形質変更したのだとばかり思っていたのだけれど。

 けれど、今スバルが操っている石はタンザナイトだ。

「どういう事なの……?」

「どうかした? アンジェリカ」

「何か思いつく事でもあったのか?」


 思案の海に沈みかけた私を、アイリスとスバルの声が引き戻す。


「あっ。ご、ごめん。なんでもない」


 いけない。今はもっと他に考える事がある。

 私たちが張った結界はすでに消耗仕切っていて、次の攻撃に耐える事はできないだろう。

 オッドウェルもそれを理解している。


「雷の魔法。省略なしの詠唱で、フルパワーで放ってくる気よ」

「とにかく、オレがオッドウェルのところに行く。あいつの左手のキーラインにさえ触れれば、なんとかなるだろ」

「スバルさんは本当に特攻型なんですね……」


 オッドウェルの周囲に召喚された無数の雷の矢を見てもそんな事が言えるのだ。スバルは地球の男子高校生のくせに肝が座りすぎている。

 少し呆れたアイリスに、スバルはニッと笑いかけた。


「一緒に協力してくれるんだろ? サポート任せた!」

「あっ! こらっ!」


 言うが早いか、スバルは単身で正面切ってオッドウェルの元へと駆け出して行く。


「もおお! しょうがないな! アイリス!」

「ええ!」


 私たちは左右へと散って、大外回りで走り出す。少しでも多く、雷の矢を分散させなければいけない。


『【援護を求める!!】』


 私とアイリスの詠唱が揃い、3人それぞれに防御の膜が現れる。正面だけ、必要最低限に防御箇所を絞り込み、そこだけ厚く強化したものだ。


「うぅっ!」


 轟音の唸り声をあげ、雷の矢が降り注ぐ。膜に入りきらない服の端々が吹き飛ばされるが、それでも生身の体はなんとか無事だ。


「オッドウェル!!!」


 スバルが聖女の力で強化した腕を伸ばす。あれなら剣を振るわれても、腕を切り落とされることはない。

 しかし。オッドウェルが大きく地面を踏みつけた途端、大きく地面がめくりあがり、高所からの地滑りとなってスバルに襲いかかる。


「【狂風よ!!】」


 飲み込まれる前に土砂を暴風で薙ぎ払う。スバルが体制を整えるのを横目に見ながら、今度は私が勝負を仕掛ける。

次は分散させない。私は大きくジャンプし、オッドウェルへと飛びかかった。


「【均衡を破り、稲妻雷鳴落雷破壊。閃光よ暗黒を切り裂け!!】


 詠唱省略なしの、巨大な一本槍の雷召喚だ。そのまま振り下ろす!

 激しいスパーク音が、鼓膜が破けそうなほどビリビリと大きく響き渡る。槍とオッドウェルの間には、やはり紫の光が介入して貫けない。


「くううううううっ!!!」


 このままだと槍は相殺され、跳ね飛ばされて刺し貫かれてしまう。けれど、


「【灼熱の獅子の嘶き、死者の骨を焼く愚者の血。終末の焔!!】


 アイリスが下から業火を繰り出す!


「スバルさん今です!!」

「オッドウェルのキーラインを奪って!!」

「わかった!!」


 キーラインの力と私たち2人の魔法が激しくぶつかり合って、オッドウェルは身動きを取れない。

 今が左手にはめ込まれたキーラインに触れる絶好のチャンスだ。

 スバルの強化された腕が、魔法とキーラインの攻防の均衡を打ち破ってオッドウェルの腕を掴むことに成功する。


「やった!!」


 思わずあげた歓声はしかし、次に巻き起こった衝撃波で吹き飛ぶこととなる。






「ル……、リス……、リカ。アンジェ……カ!!」


 誰かが叫んでいるようだけど、よく聞こえない。それよりも頭がクラクラして、何もかもがよく分からない。


「3人とも!! 早く目を覚ませ!!!」


 激しい怒声に、ハッと意識が急激に戻ってくる。

 はじめに見えたのは、フィールドの乾いた地面のドアップだった。


「ぇ……、一体何が……?」


 うつ伏せで寝転がってる状態に戸惑いながら、身を起こそうとすると全身に激痛が走る。痛みをこらえながら周囲に目を配ると、スバルとアイリスが同じようにうつ伏せになって倒れている。


「アンジェリカ!! 早く防御を張れ! 早く!!」


 気つけになった怒声はレオンのものだ。陣の向こう側での鋭い指示に、無意識に防御魔法を詠唱する。

 膜を張った瞬間、激しい衝撃に膜が破られた。私は風に吹かれる木の葉よりも容易く障壁へと吹き飛ばされる。


「アンジェリカ!」


 レオンが私が飛ばされた障壁まで走り寄る。


「お、皇子……。一体何があったんです?」

「私にも詳しくは分からない。だが、お前たち3人がヤツを追い詰めた時、空気が変わった。私が見えた範疇だが、そのまま全員が吹き飛ばされたんだ」

「空気が変わった?」


 レオンらしくない抽象的な物言いに戸惑いながらも、私はオッドウェルに目をやる。

 オッドウェルは何も変わっていない。

 キーラインに操られたまま、手には紫の光で補強された剣を持ち、変わらず私たちに殺意を向けている。

けれど。


「わかるか?」

「はい……」


 空気が変わった。

 その抽象的な言葉の意味を、確かに感じる。

 まるで何かを警戒する獣のような、これからの危機に備えて攻撃性を高め、威嚇の体制に入ろうとしている野生動物。そんな空気を感じる。


「私たちがキーラインに近づいたから、警戒しだしたってこと?」

「それも考えられるが、様子がどうも変だ。アンジェリカ、いいか、スバルとアイリスと合流して、この障壁を壊せ」

「壊す?この障壁が壊せるんですか?」


 それができないから、障壁を強化した張本人を封じようとしていたのに?

 疑問は口に出さずともレオンに伝わったらしい。


「見ろ」


 言ってレオンは障壁の天井付近を指差した。


「見えるか? あの歪みが」

「歪み?」


 レオンが指差したのは、スバルが私を守るために氷の礫を弾き、そしてその礫が障壁にぶつかって消滅した箇所だった。





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