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脅威


 勢いよくぶつかったにも関わらず、相手は全く動じる事なくそこに立っていた。

 けれど、私が言葉に詰まった原因はそれじゃない。

 背の高い男性だった。

 白い銀糸のような髪、ルビーのような赤い瞳。顔立ちこそ違うけれど、よく似た人を知っている。


「ア……」

「俺に見覚えが?」


 思わずアルフレッドの名前を呟くよりも早く、アルと同じ髪と瞳の色を持つ青年が言った。

 アルと似たような、淡々とした話し方だった。

 獣のように縦に割れた深紅の瞳孔が、ゾッとするほどの冷たさで光を放っている。

 草むらから静かに獲物を狙い定めている、交渉の余地が一切ない、捕食者の無慈悲な眼差し。


(少しも似てない)


 年齢は二十代前半くらいだろうか。

 アルより年上だが、クールに見える整った顔立ちはとても似通っている。

 けれど私が知っているアルフレッドの眼差しは、いつも瞳の奥に暖かな光が灯った暖かいものだ。

 話し方だってそう。

 淡々とした口調でも、いつも思いやりが隠れている。

 だから私は首を振った。

 遠目であれば完全に見間違えてしまいそうな姿形だけれど、この人は私が知ってるアルとは全く似ていない。


「……いいえ。あなたの事、知らないです」


 アルの髪や目の色は珍しい。

 気にした事もなかったけれど、今まで彼と同じ色を持つ人を見たことがなかった。

 でもここにきて急に————アルフレッド・オルフェーズには謎があるんじゃないかなんて、ふざけて親友のサトミに語った時のことが脳裏をよぎった。

 『スカイ・アーク』のゲーム内では、主要人物しかフルネームが登場しない。

 それはアイリスアンドアンジェリカもそうだ。

 チュートリアルを説明する役割もあって、サポートキャラとしてレアキャラよりも登場回数が多い私たちにだってフルネームは存在しない。

 そんな中で、アルだけは脇役キャラを位置付けられながらも、最初からフルネームが存在していた。

 ビジュアルがかなりかっこいいから、スタッフが気に入って力を入れたんじゃない?なんてサトミは言ってたけれど。

 でも本当にそんなことが?


「人を探している様子だったな」


 言われてハッとする。目の前の男性とアルの類似点に驚いて、余計なことを考えている場合じゃない。

 今考えるべきは、スバルの身の安全を確保する事だけだ。


「そうです。だから私行かないと。ぶつかってごめんなさい」


 深く頭を下げて謝罪の意を見せる。

 フードの男とオッドウェル。優先すべき脅威なのはどちらだろう。再度動き出そうと男に背を向けた時。


「探しているのは灰色のフードを目深に被った男か?」


 背中に投げられた言葉に思わず振り返り、そして後悔した。

 淡々とした捕食者の瞳の中に、獲物をいたぶる愉悦の光が灯った瞬間を見てしまった。

 生命活動に必要な一環としての捕食ではなく、暇つぶしに獲物を無意味に弄ぶ残酷な狩り。

 それと同じ目をして、私を見下ろしている。


「……どうして、それを……」

「それとも、紫の石だろうか」

「!!」


 更なる言葉に、私は完全に凍りつく。

 何故それらを知っているのだ。

 紫の石がバイオレット・キーラインであること知った上での発言なら、事件関係者に間違いはない。

 けれど、何故フードの男のことまで知っているのか。

 ゲームをプレイしていた私だけが知っている情報のはずなのに。

 それに、このアルと良く似た容姿の青年だなんて、ゲームのどこにも登場していない。


「あなた……、一体何者なの?」

「それをお前が聞くのか?」

「……?」


 問い詰めたつもりが、返って来た返答に眉をひそめる。


「俺こそお前の存在が分からない。何故フードの男の跡をつける? そしてさっきは男子生徒に付いた石に反応していたな」


 いつから見られていたのだろうか。

 驚いて青年を見ると、あの獲物をいたぶる瞳のまま私を見据えてくる。

 ゆったりとした足取りで、一歩ずつ距離を詰めてくる。私は無言で後ずさるしかない。

 追い詰められている。けれど必死で男から目を逸らさないように目元に力を込めた。

 目をそらしたら、背を向けたら最後、肉食獣が容赦なく飛びかかってくる。直感的に確信していた。

 だからだろうか。獣のような瞳に影がチラついたのに気付いたのは。


「あの男の何を知っている……?」


 その影は———憎悪?

 次の瞬間、私は弾かれたように大きく後方に跳んだ。

 男の手に、紫の輝きが見えたからだ。

 指先に摘まれているそれは、バイオレット・キーラインに他ならなかった。





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