あなたが笑ってくれたから
「ス、スバル!!」
「ええっ!? どこどこアンジェリカ!」
思わず声をあげた私に、アイリスも凄まじい勢いで食いついてくる。
「あ、あそこあそこあそこ!!」
「アンジェリカ待って! ちゃんと指差して! 震えて分かんな……ああっ!!」
そこにいたのは間違いなくスバルだった。
ビリー・パーカーと並んで立っていたが、その内ビリーが先に私たちの視線に気づいたようだった。こちらに向かって軽く笑いながら手を振った後、スバルの肩をつついてこちら側を指差す。
スバルが私たちの方へ振り向いた。
一瞬驚いたように目を丸くするも、そのまま気恥ずかしそうに私達に笑いかけた。
「スバル……!」
「スバルさん!」
「なんだなんだ。あれからまだ会えてなかったのか? スバルも意地っ張りな所があって可愛いね」
アルを特別扱いした口で、即スバルを可愛がる。
レオン×アルフレッド派の普段の私であれば複雑な気持ちにもなってただろうけれど、今はそれどころではない。
だってだって。
「良かったぁ、スバルさん、笑ってくれてる」
「……うんっ!」
スバルの姿をやっと見る事ができて、そして笑ってくれたのだ。
仲直りができそうな予感に心が浮き立つ。
そのままグラウンドまで降りていこうと席を立ち上がりかけ、レオンに制止される。
「開会式も終わって、そろそろ魔法陣が発動される。もう順番が来た生徒以外下に降りては駄目だ。今日は部外者も多い。マナー違反は厳しく罰せられるぞ」
「そ、そうだけど……」
でもスバルと仲直り出来る機会を失いたくなくて、私はそわそわともう一度スバルに目を配る。
スバルもこちらをしっかりと見ていた。
隣のビリーがスバルに何かを話しかけ、それにスバルは頷いて答えたようだった。
スバルがポケットから何か小さな物を取り出し、それを唇に寄せて何かを呟く。
その瞬間、私たちの席に小さな風が生み出された。
『オレのこと、ちゃんと見ていて欲しい』
「えっ?」
スバルの声が聞こえた。まるで目の前に立って話したような音量で。
でもスバルの姿はグラウンドにいたままだ。ならこれは。
「【風の囁き】。風属性の魔法の中じゃ初歩だけど、以前のスバルならそれさえできなかった。随分な進歩じゃないか」
レオンがピュイっと軽く口笛を吹いてみせる。
風の囁きは風属性の初級の魔法で、目に見える範疇の者へのメッセージ手段として使われる魔法だ。
「確かに初歩ではあるんですけど……」
「風の囁きは繊細な術で、こんな正確に音声を再現できるものじゃないのに……」
それに、スバルは詠唱も魔法を発動するための陣も描いてなかった。
「いいね! スバルも何も対策せずにこの試験に臨む訳じゃないって事か。面白くなりそうじゃないか」
レオンはハットのツバを指先で押し上げ、観覧席から身を乗り出す。
モノクルに隠れたペリドットの瞳が、興奮じみた色合いを浮かべてギラリと輝く。
「現聖女の力、私に見せてくれ」




