あなたたちに協力します!
「アンジェリカ!?」
「アンジェリカ、それは危険じゃないのか?」
スバルとアイリスが共に驚きに声を上げる。
レオンとアルと共に大神殿へ行く。その決意に真っ先に異を唱えたのはアルだった。
「神殿で何が起ころうとしているのかは俺には分からないが、スバル殿を遠ざけるんだ。それなりの危険を察知してるからだろう。そこにアンジェリカが一緒に行くのは危険なんじゃないのか?」
アルの赤い瞳が私を捉える。その瞳の中に心配の影を見つけ、私は困って眉を下げた。
危険かどうかなんて、正直今後の流れの見えない私には分からない。
謎の人物と出会った時、彼はスバルの姿に反応して近づいて来た。
けれどスバルが行かない今、アル達だけだと謎の人は彼らに近づかず、何のイベントも起こらない可能性もある。
聖女殺しの犯人を捕まえるのに、それであっては都合が悪い。
謎の人の顔が見たことないけれど、マントについたフードを目深に被った立ち姿のグラフィック。私はちゃんと覚えている。
私なら大神殿で謎の人を探し出し、無理にでもコンタクトを取ることが可能なのだ。
「危険かどうかは分からないけど。でも私が行かなきゃ大神殿で何をするか分からないでしょ?私だって行ってみなきゃどうなるか分からないけど……」
「しかし……」
「まぁまぁ、そこは割り切らなきゃいけないところだうね」
アルが更に言い募ろうとした時、レオンが割って入った。
「アル。私たちの目的は前・聖女殺しの犯人を捉える事だ。
確かにこの事件に絡んで貰うとなると、アンジェリカは多少危険に晒されるかもしれない。けれどそこは本人がこう言うよう、しっかり納得済みのようだ。私たちはその協力の申し出を有り難く頂いて、成果に繋げなければならない」
相変わらずの獲物が罠にかかったら、逃さないよう真っ先に足を折るような奴だな。
良い事を言ってる風に装って、言質を取ったのならばと退路を断ちにかかるレオンに乾いた笑みの形に口が軽くひきつる。
「〜〜〜っ!まあ、そうよ。協力するって決めたから、私が同行するのをアルは気にしないで」
レオンへの怒りを振り払い、私はアルに微笑みかけた。けれどアルは微笑み返す事もせず、眉をひそめたまま私の目を覗き込む。
「アンジェリカ、本当に俺たちに協力するつもりなのか?」
「そうよ。私はスバルのサポート係なの。スバルへの危険を払うのも、私に与えられた仕事の一つよ」
アルの最終通告とも取れる問いかけに、私は即座に頷いた。
何の対策もとならければ、いつか謎の人物とスバルは遭遇し、そして命を落とすことになる。
私はその光景をゲームの中で何度も見ている。
あの時はコンテニューを押せば良かった。セーブ画面にまで戻れば良かった。何なら、全てのエンディングを集めるための手段の一つでしかなかった。
でも今は違う。
スバルは私の目の前で1人の人間として生きていて、死んでしまえば次はないのだ。
私はスバルをサポートする。
それは今世で与えられた私の使命であり、スバルを友人と思う私の想いだ。
アルはガーネットのように赤い瞳で、私の心の底まで見透かすようしばらく視線を外さなかった。
そして根負けしたように目を閉ざし、軽くため息を吐いた。
「……分かった。アンジェリカの意見を尊重する」
「本当!?」
我慢比べの末の了承に両手を打って喜ぶものの、すぐさま静止の声がかかる。
「ただし」
「えっ」
「俺の側を離れるな」
「え?」
意味が分からずキョトンとした私に、アルは念押しのようにもう一度繰り返した。
「いいか、大神殿では決して俺の側から離れないで、俺に守られてくれ。
協力には感謝する。けれど、この条件を飲まなければ神殿への同行は許可できない」
「え、でも……」
すでにアルの主人が私の後退するハシゴを外したばかりだ。それなのにそんな事を言って良いのだろうか。
ちらりと視線を移行すると、レオンは興味深そうな面白がっているような顔つきでアルを眺めているが、発言を止めるような気配はない。
「我が君だって、アンジェリカを危険に晒したい訳じゃない。安全は優先されるべきだ。もしアンジェリカに何かあれば、アイリスにだって申し訳が立たない」
アルの言葉にアイリスがすぐさま相槌を打つ。
「本当にそうですよ。アンジェリカ、私だって心配なのよ。私たちの役割や、あなたにしか出来ない事があるんだって分かっていても、あなたの事が心配よ」
アイリスは私の手を取るとギュッと強く握りしめた。
「アンジェリカが言い出したら聞かない性格なのは十分に分かってる。今回だっていくら私が止めても、きっと言うことなんて聞かないってことも。でも、だったらせめてアルフレッド様達にきちんと守られるって約束して」
「アンジェリカ。アルの言う通り、私たちは君の安全を度外視している訳じゃない。危険を防ぎ得る手段があるのなら、それに従うのが一番だ」
アイリスの暖かい思いやりの言葉と、非常に合理的なレオンの言葉に後押しされ、私は勢いに押されるようにして頷いた。
「わ、分かった。そしたら大神殿ではアルの側から離れないから。アル、よろしくね……?」
「ああ。何があっても必ず守る」
アルのクールな容貌からは想像できない優しい声で宣言され、私は気恥ずかしくなってモジモジとエプロンの端をいじりながら俯いた。
「オレも大神殿へ行く」
その時だった。今まで黙っていたスバルが口を開いたのは。




