チートと異世界転生は切り離せない設定でしょ!?
鏡の中で、金色の巻き毛を鎖骨ほどまで伸ばしたエメラルドの瞳をした少女が笑っている。
口を尖らすと少し拗ねたような表情に。
口をイーっと横に伸ばすと、愛嬌のある表情に。
(なるほど)
私はトイレの鏡に勢いよく両手をついた。
まちがいなく、私はBLゲーム『スカイ・アース』のサポートキャラ、アンジェリカになっている。
「まさか、自分が異世界転生するなんてね……」
しかもあの『スカイ・アース』の中にだなんて。
未だに信じられない。しかし何度頬をつねってみても、目覚めないのだから仕方ない。
メグミであった時の私の記憶は、マックトナルトから信号を渡ろうとした所で途切れている。おそらくそこで事故にあったのだろう。
「それでもまぁ、転生先がまだアンジェリカで良かったのかも」
アンジェリカはチュートリアルのサポート役として何度も画面に登場するので、他のモブに比べるとキャラデザインもそれなりにしっかり可愛く作られている。
「これがもし他のモブ……。鍛冶屋の親父とかだったら発狂ものだったわ」
恐ろしい考えに身震いしていると、トイレの扉の外から声がした。
「アンジェリカお腹痛いの大丈夫?」
聞こえた声に、慌てて返事をする。
「アイリス。もう大丈夫」
転生に気付いた後、自分の姿を確認したくて、私は校門へ向かう前にトイレに飛び込んだのである。1人になりたくて、アイリスには適当なことを言って外で待ってもらっていた。
「ごめんごめん、お待たせ」
「様子がおかしかったのはお腹が痛かったからなのね。気が変になるまで我慢しなくても良かったのに」
私がようやくトイレから出てくると、アイリスが心配そうにコテンと首を倒した。
(この子も可愛くて、このお助けペア好きだったんだよな〜)
そう思いながらふと気が付く。
そういえば、アイリスアンドアンジェリカは、『スカイ・アース』の中でのお助けキャラだ。
いわばある種のチートキャラである。
(うわきたこれっ!)
思わず内心でガッツポーズを決める。
だってせっかく異世界転生をしたにも関わらず、私は何の能力も選んでいない。
今まで読んできた転生ものは、神的存在が転生先を選ばせてくれたり、チート能力を与えてくれたり、色々お得な特典があったのだ。
しかし私は完全に誰からも無視しされたまま、異世界転生を果たしたのである。
チートが今の流行りじゃないのかよ!
そう嘆きかけていたが、ところがどっこい。
意外な形で私もちゃんと流行りに乗っかれていたのであった。