レオンを生贄に差し出せたら良いのにな
優しいアイリスなら、それでも言葉を選ぶかと思っていたけれど、かなりうんざりしていたのだろう。
問題を引き起こした張本人に、何とかしろと言った気持ちが言外にたっぷり含まれている。
「何だって?何がどうしてそうなるんだ?」
「皇子がウィンディアナ嬢を聖女のようだ聖女のようだと口説いたんじゃないの。だから彼女、鵜呑みにしちゃったのよ」
「ええぇ?」
そんなことってある?そう言いたげな声をあげ、レオンは現・聖女であるスバルに助けを求める。
スバルは勉強の手を止め、嫌そうに顔を歪めた。
「俺は聖女じゃなくて良いっつってんのに、向こうがやたら絡んでくるんだよ。嫌がらせされても相手女の子で手も出せねーし。オレ、すげぇ迷惑してんだけど」
「なっ……!」
「ちなみに、私たちも彼女の取り巻きたちから、しこたま嫌がらせ受けてるんだからね。
聖女はウィンディアナ様こそ相応しいって演説受けるのは日常茶飯事。こないだなんて、生卵頭上で割られて頭から卵まみれになって大変だったんだから」
「私も使用する調味料全てすり替えられてて、地獄のような料理を作成してしまいました……」
ウィンディアナ嬢は根っからの性悪ではないのだろう。嫌がらせのレパートリーは地味なものが多い。が、数が多くてこちらは完全に気力体力共に消耗しきっている。
「アル、まさかお前も何か嫌がらせを……?」
「いや、俺は……」
「隠さないで言っちゃいなさいよアル! アルは皇子に会わせろ会わせろって毎日詰められて、護衛するならスバルじゃなくて、皇子の聖女であるウィンディアナ様を護衛するのが筋だろうって、もう大変なんだから!」
「ま、まさかこんな事になるとは……」
自分の魅力で良いように丸め込んだつもりだったのが、まさかの斜め45度の角度で話が転がっているとは思いもしなかったようだ。
レオンは痛む頭を押さえるような仕草をしたかと思うと、ハッとしたようにスバルへと身を向けた。
「スバル!スバル、キミはどんな嫌がらせを……?」
「最近だと魔法実験の術式にちょっかいかけられて、空から蛙が降って来た。ちなみにそれで赤点食らって俺居残りだから」
そして見かねたビリー・パーカーが手助けした事が友情のきっかけである。
レオンは完全に頭を抱えた。
「ううん、……どうも私が軽率だったようだ」
「この年代の少女の心は純粋で暴走しやすいんだから。責任とって何とかしてよ」
「君は私の聖女ではないって言おうか?」
「おいやめろ!今度は空から豚が降る!」
レオンの言葉にスバルが慌てて止めに入る。
確かに、レオンの言葉を真っ直ぐ信じて行動しているウィンディアナ嬢にそんな事を告げようものなら、後が怖くて仕方ない。
「ここはもう、いっそ潔く彼女をレオン様の聖女という名の恋人にされるのは如何でしょう?」
「アイリス……、君、本当に嫌がらせで疲れてるんだね」
良い事を思いついたとばかりに目を輝かせるアイリスに、レオンは悲しそうに首を振る。
確かに、もし私がレオン×アルフレッド派でなければ、レオンを生贄に安心安全な生活を選ぶ事も辞さなかっただろう。
私は深いため息をついた。
「とにかく。今度、優秀生だけが行ける課外学習の選抜戦があるの。魔法術を使っての勝ち抜きだから、結構危険な事も多いわ。これを機に、ウィンディアナ嬢の取り巻き達がスバルに何か危害を与えないか心配なのよ」
(それに、このイベントはスバルにとっては危険すぎるのよね)




