新生活始めてます
「へぇ、じゃあ早速ビリー・パーカーと友達になったんだ?」
「ああ。授業で魔法実験てのがあって、助けてくれたんだ。いい奴だよ、あいつ」
「ビリーさんは、魔法学の特待生ですもんね。仲良くなって損はありませんよスバルさん」
なんて言って笑う私たちは、『光の塔』生徒専用の食堂にいる。
昼食時はガヤガヤと混んでうるさいけど、放課後になればそこまで人も集まらない。
空いた食堂の給仕室は、私たち使用人も自由に使うことができる。気軽なアフタヌーンティーを楽しむには持ってこいだ。
それだから、私とアイリス、スバルは、放課後によく食堂を利用してお茶を飲みながら作戦会議を行うことが増えていた。
何の作戦会議かって?
そりゃもちろん、スバルの今後と勉強についての作戦会議だ。
「そもそも魔法学って何なんだよ。俺が元いた世界じゃ、魔法なんて漫画やアニメにしか出てこねーのに」
「まぁーそうねぇ。スバルには馴染みがないかもねぇ」
「なんなんです?アニメって。魔法がないなんて、スバルさんのいた世界は、文明があんまり発達してなかったんですか?」
「いや、俺がいたところでは、魔法じゃなく科学ってやつが発達してて——」
アイリスの問いに、スバルが科学がどんなものかを説明する。
こうやって『スカイ・アース』で生活するために、スバルのズレた認識を一つずつ確認していく。
元いた世界に戻れるかも分からないスバルが、この世界で生きていく為に必要なことだ。
「エレメントはもう理解できた?」
「五大要素ってやつだろ? それは流石に。土金木水火。あと、例外の風だっけ」
「おー、えらいえらい。最初は覚える気もなかったのに、成長したね」
指折り数えて行くスバルに私は拍手を送る。
スバルと同じ地球から『スカイ・アース』に転生した私だけど、そこはサポートキャラの属性をフル活用している。
知識ゼロで召喚されたスバルとは違って、この世界の法則に馴染むのは結構簡単だった。
だからこそ、こうやって放課後スバルに家庭教師の真似事ができるのだ。
「さすがに2週間ここで生活して、魔法が分かんねーと支障が出るって身に染みたからな。くっそ、ここからの派生がややこしいな」
「あ、スバルさん。教科書に一回戻って下さい。そこに法則書いてあるんで」
アイリスがすかさず疑問点にヒントを与える。
ビリーとの仲良しエピソードをもっと聞きたかったけど、スバルの勉強の邪魔はできない。
頭を揃えて教科書を覗き込む2人に、私も黙って頭を突っ込み、スバルを頂点にトライアングル状になる。
どうなることかと思った学園生活も、スバルはどうにか頑張って馴染もうと努力していた。
転校早々の事件で、色々問題はあるものの、ビリーという心強い友人も出来そうなので一先ず安心する。
このままビリー×スバルルートでも良いんだけれど、私には一つの企だてがあった。
(てゆーか。それがスバルをバッドエンドから救い、レオン×アルフレッドを見ることができるかもしれない、一番良いルートなのよ)
レオンが持って来たロクでもない問題。
前聖女殺しの犯人探し。
そんな事件、私にとってはどうでも良い。
て、言うか、むしろそんな事件に近づいて、スバルを危険に晒してどうするよって思ってる。
スバルをBADENDにしないと決めた私の決意は硬い。
けれど反面、それがあるからこそ、レオンとアルが一緒に過ごしている場面を見ることができると言ったジレンマもある。
(ゲームの中でもレオンがメインになるときは、事件がらみが多かったもんね)
つまり、聖女殺しの調査に関わらなければ、レオンたちとの接点も薄れてしまう可能性があるのだ。
スバルの命の安全を保ちつつ、事件調査に関わることはできるのか。
(その答えはイライアス・ジェーンが握ってる!)
私はギュッと拳を握りしめた。
イライアス・ジェーン。
私が未来を見ることが出来ると勘違いの元になった少年。
豪商の息子で、幼い頃、納屋で眠り込んだ少年。
スバルの攻略対象の1人。
(そして唯一、聖女殺しの事件と関わらずにENDを迎えることが出来るキャラ!)
私はカッと目を見開き、まだ会えぬイライアスを思った。
そうなのだ。イライアスルートになると、聖女殺し事件の話は全く出てこなくなる。
その代わり、イライアスの実家の取引先がスバルの力を狙って事件になるといったサイドストーリーが発生する。
けれどそれも死亡エンドに比べれば可愛いものだ。
(スバルとイライアスを出逢わせ、強引にイライアスルートに持って行く。私はレオンとアルと共に、前世でプレイして得た知識で調査に協力しながら2人と行動する。
どうよ!スバルは安全に幸せになって、私は私でレオンとアルをくっ付ける事に集中できる!まさに完っ璧な計画……っ!!)
問題は一つ。イライアスの出現が中々のレアなのである。
その出現条件は不明で、同じ条件でも会えたり会えなかったりする。かく言う私も、聞いた条件でプレイしたものの、全く会えず終いだった。
そのくせ、違うルートで進めている時にイライアスに会い、そのままゴールすることが出来たという始末。
ある種、存在がトリックスターのようなキャラなのだ。
けれどスバルを救い、自分の欲望を満たすためには、このレアキャラをふん捕まえてスバルの前に持ってこなければならない。
(これが、私に与えられた使命……!!)
握りしめた拳が、テーブルを震わせそうになったその時。
「手のひらが爪で傷ついてしまうよアンジェリカ」
私の拳を大きな手のひらが覆った。




