長い1日の終わり②
日中の出来事を回想しながら、私はアイリスが寝ている隣のベッドへダイブする。
ふわふわのベッド。乱暴に体を預けてもふんわり包んでくれて、音も出ない。
枕にギュッと抱きつくと、抱きしめがいのある低反発が跳ね返っててきた。
ちょっと体験したことのない心地良さだ。
ふと横を見ると、アイリスの寝顔がすぐそこにあった。
寝心地を満喫しているその幸せそうな顔に、つられて笑みがこぼれ落ちる。
(ふふっ、よっぱど疲れたのね。ベッド気持ち良いし、すっかり爆睡しちゃって。……でもまさか、こんなに豪華な部屋を用意してくれるなんて思わなかったなぁ)
レオンが私たちの為に用意したのは、レオンたちと同じ14階フロアの客室だった。
スバルが所属する『光の塔』は、10階から生徒たちの学生寮が始まり、最上階の14階は、学園の中でも特に名家の生徒や、時には王族関係者等、トップクラスの特権階級の者が使用する。
そんなフロアの客室を使用するなんて恐れ多すぎると固辞したものの、レオンは全く聞き入れなかった。
使用人専用区画にいるよりも、12階フロアにいるスバルとの距離が近くなる。そのことが重要だと言って押し切られた形だ。
一番狭い部屋とは言われても、それでもアイリスと2人でも十分な広さと、数々の高価な調度品に尻込みが止まらない。
(でもベッドだけは本当に最高!明日の朝、起きれるか心配になっちゃうよ)
寝返りを一つ打った時、共有廊下側の扉が控えめに鳴った。
上半身を起こして扉を見やると、再度小さなノック音が聞こえた。
時間はもうすぐ22時になろうかとしている。寝るには早すぎる時間かもしれないけれど、人を訪ねるには遅すぎる時間だ。
それでも、このセキュリティの厳重なフロアへの安心感から、私は扉へと向かった。
「……誰?」
アイリスを起こさないように小声で応え、小さく扉を開く。
共有廊下の明かりは落とされ、オレンジ色の常夜灯が薄暗く灯っている。
そして、その廊下に立っていたのは、日中と出で立ちの変わらないアルフレッドだった。
「アンジェ……っ、すまない。もう寝るところだったんだな」
アルは驚いた様子で、脇へとサッと視線を外した。
その行動を疑問に思い、すぐ自分がネグリジェ姿のまま、訪問者を出迎えたことに気付く。
「あ、みっともない格好のままでごめん。ちょっと待ってて」
アルの返事を待たずに部屋に戻り、解け切っていない荷物の中から大振りのカーディガンを取り出す。肩にかけ、再度元へ戻ると、アルは気まずそうな顔をしてこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「いや。すまない、起こしてしまったか?」
「ううん。アイリスは疲れてもう寝ちゃったけど、私はこれから。いつもはもっと起きてるんだけど、さすがに今日は色々あって疲れちゃって」
そう言って笑うと、さもありなんとアルが頷く。
「そうだろうな。今日は色々大変だっただろう」
「本当に。すっごく大変な1日だったわ。特にお宅の上司のせいで」
思わず嫌味で返してしまうと、アルは苦笑した。
「いや、本当にそうだと思う。色々と失礼をして、申し訳なかった。それを伝えておきたかったんだ」
アルがわざわざ出向いた理由を聞いて、私はパチリと瞬きを一つした。
それを驚きと取ったのか、それとも心の防御だと捕らえたのか。アルは更に言葉を続けた。
「我が君は本当にお前を犯人やスパイだと思った訳じゃない。ただ、腹芸ばかりの世界で生きてきたあの方にとって、誰かを信用ことは容易ではないんだ」
側室の第6皇子。確かに安易な世界で生きて来てはないのだろう。
私だって、今となってはレオンが本気で私を疑っていたとは思っていない。
本人も言っていた通り、私の不可解な行動の理由を知りたかったのと、多分、からかって楽しんでいたのが大半だ。
「分からない訳じゃないけど、私本当に怖かったんだからね?アイリスが話してくれなきゃ、どうなってたんだろうって、今でもゾッとするんだから」
「それは……、本当に申し訳ない。我が君もやりすぎてしまった」
そこでアルは、少し困った顔をした。
「どうやらアンジェリカ、我が君は君を気に入ったようだ。あんな楽しそうな顔は、俺も久々に見た」
「はぁ?!」
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