久しぶりのお仕事です
「何が知りたい?聞きたいの? 疑問をそのままにするなんてナンセンス!その場で聞くのがセンスあり!困ったことがあればいつでもどこでも! アイリスアンドアンジェリカに尋ねてねん☆」
最後に二人揃っての猫の手ポーズ!
ええ、やり切ってやりましたとも。
唐突に始まったダンスに唖然としている男たち3人を、私はもう見ないことにする。
「私たちが一体何のためにスバルさんのお側にいるのか。そろそろ忘れられてるかと不安だったんですけど、ようやくの出番です!ねぇアンジェリカ!」
「はっはっはー!そのようねアイリス! スバルが疑問に思った時が私たちの出番よ!」
やけくそで、なぜか悪役めいたセリフを吐いてしまう。けれどそうなのだ。
私たちはサポートキャラ。
スバルが知りたいと思ったことを、解消するのが私たちの使命なのだ。
「え、えぇと。一体何が始まったんだい?」
「スバルをサポートするために派遣されたって言ったでしょ!これが私たちの仕事なのよ!」
あっけに取られながらも恐る恐る尋ねてくるレオンに、半ギレ気味で返事をする。
この状況を選ばない音楽とダンス。それでも踊ってしまう自分が心底恥ずかしいのだ。
(ああ、アル。切れ長の目をそんなに丸くして私たちを見ないで!)
「えっと。クラスまで案内してくれた時みたいに、何か教えてくれるのか?」
これを見るのが2回目のスバルは、まだ心に余裕が残されている。ちょっと驚いたものの、すぐに気を取り直して質問してくる。
「スバルさんの聖女としての力の説明ですわ」
「聖女としての力?」
アイリスの言葉に、バイオレットの瞳を瞬かせ、スバルが復唱する。
「石の性質が変わったことと、スバル殿の聖女としての力。一体何の関係があるんだ?」
アルも不思議そうに聞いてくる。
私はサポートキャラとして脳裏に浮かぶ情報を選別しながら、今スバルの手によって行われた現象を説明することにする。
「何度も言われてるけど、スバルは聖女なの。聖女の力を受け継ぐ者として、この『スカイ・アース』に召喚されたのよ。そしてスバルはその聖女の力を使って、憎しみの石を浄化したのよ」
「分かり難いな。もう少し具体的に説明してくれないか?」
レオンの言葉に、次はアイリスが頷く。
「ご存知かもしれませんが、聖女は代々紫の瞳を持って顕現します。聖女だけが持つ紫の瞳の色には力があるんです。そして、その力を発揮するため、歴代の聖女は石を媒介として使用してきました」
「だから今回、スバルはバイオレット・キーラインを媒介に、石に触ることで無意識に力を発動させたの。スバルの力は、キーラインに込められた呪いを解除したのよ」
この設定は、これからのスバルの冒険に必要となる知識だ。だからこそ、この知識をスバルに授けるために、私たちサポートキャラの出番となったのだ。
交互に互いの言葉を補助しながら話す私たちに、アルが素朴な疑問をぶつけてくる。
「なるほど。では石の性質を変化したのも、スバル殿の力が関係しているのか?」
「そうなります。聖女の力を媒介する石には、相性があるんです。恐らくですが、スバルさんは自身の力を媒介しやすいよう、石を性質変更されたのだと思います」
「ふーん。スバルの性質はラピスラズリ……。神につながる石。なんだか私の持つスバルのイメージじゃないけれど、この石がスバルの力の媒介になるってことだね」
レオンが手の中の石を転がしながら言う。
スバルに似合わない、スバルの力を媒介する石。
(確かに。スバルは神とかじゃなくて、もっと現実的なイメージだもん)
「スバル殿の力でバイオレット・キーラインの力が浄化されたとしたなら、この生徒が目覚めるのも近いということだな」
アルのその言葉に、石に集中していた意識が女生徒へ向く。
「瞼の裏の眼球が動き出している。うん、もうすぐ目覚めそうだな」
身をかがめて女生徒の顔を覗き込んでいたレオンが、すっと背筋を伸ばす。
そして私たちに向かい合い、微笑んだ。
「さて、アイリスアンドアンジェリカ。君たちは随分色んなことを知っているみたいだね。それにアンジェリカは未来まで見る」
微笑んでいるのに、レオンの目の奥は笑っていない。
嫌な予感に、アイリスの腕を掴んで思わず後ずさりをしてしまう。
けれどレオンはその距離を、一歩前に出ることで易々と打ち消してみせた。長身のレオンの影に、私たちは覆い尽くされてしまう。
獲物を狙うような目。いや、得利を計算している者の目だ。
「スバルをサポートすることが君たちの仕事なら、私たちのスバルを守る目的とも合致するな。これからは、私たちとも行動を共にしてもらおう」
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