人は見た目じゃわかんない
信じられない信じられない信じられない!!
こっちは人生の終焉を本気で覚悟しそうになったのだ。
何がちょっと追い詰めたら、だ。崖っぷちに立たされたかと思ったわ!
アイリスが私をただの変わった奴だとだけ思っていたなら、今頃どうなってたかも分からない。
デコピンされたおでこを押さえながら、怒りに打ち震えながらレオンを睨みつける。
けれどそんな私の姿などお構いなしで、レオンは上機嫌な様子で寝かされた女生徒の枕元へ向かっている。
(ぐぬぬ……、下々の心なぞ気にもかけぬってか? お気に入りのキャラだっただけに、可愛さ余って憎々しい……)
治らない怒りに歯噛みしていると、脇からドシンと勢いよくぶつかられた。
「わわっ」
よろけながらもその塊をひっしと受け止める。
スバルを押しのけるように抱きついてきたのはアイリスだった。
アイリスの勢いに驚いた様子のスバルの事も、今は目に入っていない。
「ごめんねごめんねアンジェリカ!私、あなたの秘密を喋っちゃった」
本気で後悔しているのだろう。顔は真っ青なのに、涙で目尻が赤くなっている。
今日は心配をかけっぱなしで、アイリスは私のせいで泣きっぱなしだ。
赤く染まる目尻を申し訳なく思いながら、私はなんとなく昔のことを思い出してきていた。
私は確かにメグミだったけれど、同時にアンジェリカでもあった。
アイリスは私のことを姉妹のようだと言ったけど、あれは間違いなく正しい。
私の記憶の中にも、確かにアイリスと過ごしてきた記憶がある。
「いいんだよアイリス。泣いて悔やむほどの秘密じゃないよ。それに、私を守ろうとして話したのも、全部分かってるんだから」
私たちはどちらもが姉で妹。二人で一つのアイリスアンドアンジェリカ。
私はアイリスをギュッと抱きしめた。アイリスも私の背中を握りしめる。暖かい涙が私の肩を濡らす。
転生から目覚めてようやく。
私はアイリスの姉妹として、そしてアンジェリカとして戻ってきたような気がする。
「ちょっとちょっと。絆を確かめ合ってるところ申し訳ないんだけど、この女生徒を起こすヒント何か思い当たったりしないかな?」
「……」
まぁまぁ感動的な場面だったと思うんだけど。
それをそんな簡単にぶち壊せる人って、そうそう居ないんじゃあないかな。
私とアイリスは、遠い目をしながら抱擁を解いた。
「ええと、なんですって?」
「この生徒が起きる心当たり。ここまで眠り続けるのもおかしな話だろう?アンジェリカ、何か知らないかい?」
このやろう。さっそく私の「未来を見る力」ってヤツを試してきてるな。
「おい、いい加減にしろよ。アンジェリカだって全部が分かる訳じゃないって言ってただろ。さっきから試すような真似ばっかりやめろよ」
私が何か言うよりも先に、スバルが怒ったようにレオンの元へ向かう。
そんなスバルに怯むどころか、レオンはどことなく嬉しそうな顔をして迎え入れる。
レオンがスバルを気に入ったのは間違いなさそうだった。
「オレを突き落とそうとしたのも、この生徒がやった事なんだ。無理にでも起こして、誰に操られたのか聞いたらいいだろ?」
「それがさっきから全く起きないから困ってる」
言って、わざとらしくヘニャリと眉を下げてみせる。
メグミな私なら、キャーキャーと歓声を上げていたところだが、アンジェリカとして尋問された今となってはケッと悪態をつくばかりだ。
けれど確かに。
操られているにしても、本人の意思だったとしても、起きてもらわないと話は始まらない。
「ん?ちょっと待ってよ。レオンは……いやいや、レオン様は何でその女生徒が操られてるって判断したの?本人の意思じゃないって、何でそう思ったわけ?」
私はハッとして疑問を口に出した。目が爛々と輝いてしまうのは致し方ない。
私の分かりやすい反撃にレオンは苦笑する。
「何だかさっきと立場が逆転だな。私には未来を見るなんて力はないからね。情報として知ってるだけさ」
追求される立場に回ったと言いながら、ちゃんと当てこすってくる所が性格が悪い。
誰だ、レオンが良い人にしか見えないなんて言った奴は。
……私か。
全く人を外見や表面上だけで判断するものではない。
反省を胸刻んでいると、スバルが私の代わりに疑問を発する。
「情報ってどんなだ?」
「バイオレット・キーラインを媒介に、誰かが力を振るっている。殺された騎士の近くにも、この石が落ちていた。希少な石だ。そこらへんの石ころみたいに落ちていていいものじゃない」
「その石を埋め込まれている彼女は、おそらくキーラインの持ち主に操られてる可能性が強い。我々はその持ち主を探し出そうとしている」
レオンの言葉にアルが情報を付け足す。
「キミが持ち主だったら話は早かったのにね」
私を見ながらレオンが悪戯げに笑う。
そっちは冗談のつもりかもしれないが、こっちからしたら堪ったもんじゃない。
抱きつく腕に力を込めるアイリスを、抱きしめ返しながら私は威嚇を込めて歯を剥く。
そしてスバルがサラリと告げた。
「オレにはよく分かんねーけど。その石が色々な原因なら、その石を取っ払えば起きるんじゃねーの?」
「まぁ、妥当な答えだよね。そうは思うけど、その取っ払い方っていうのが分からない」
「ふーん」
スバルはレオンと入れ替わるように枕元に立ち、そのまま横たわる女生徒の首筋がよく見えるよう、髪を持ち上げた。
男子高生らしい、髪の扱い方を知らない無造作な仕草だ。けれど、無造作なのにどことなく色気があって、私は拳を握った。萌えを押し殺したのだ。
「おい、無理に取ろうとするなよ。どんな副作用が出るか分からない」
アルがスバルの頓着ない挙動に、ハラハラした様子で声をかける。
スバルは聞いているのかいないのか、キーラインに指で触れ、そして。
「取れた」
「えっ?!」
全員が思わず声を上げていた。
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