私は一体なんてゲームに転生したの?
「お、オレのことを考えてくれるのはありがたいけど、それよりオレは、周りの人が巻き込まれるのが嫌なんだ」
焦ったようにレオンから手を取り返し、スバルは赤くなった顔を隠すようにそっぽ向く。
その姿にレオンは甘く笑った。
「ではそれも一緒に約束するよ。私には心強い従者もいるからね。アルフレッドは優秀だ。そうだろう?」
突然話をふられ、アルは少し驚いた様子だった。それでも褒められて満更でもないのだろう。スバルと似たようにそっぽを向きながら、わざとらしい咳払いをする。
「まぁ、そうですね。それを我が君がお望みなら、そのように」
(ア、アルゥ〜〜!!)
ごめんねごめんねっ!私は心ので必死に謝る。
私が最初に無用な介入をしてしまったがばっかりに、ルートはすっかりレオンの方へと流れ出してしまっている。
推しを幸せにしたい今世なのに、まさか自分のせいでこんなことになってしまうなんて。
私が罪悪感にのたうちまわっているとも知らないで、スバルの膝元からレオンは立ち上がった。
「とは言っても、守るべき人は厳選しなければ。間者を守ってこちらの臓腑から食い荒らされるのはごめんだからね」
スパイ。
あのクラスメイトの中で、他にも誰かが操られてたり、自分の意思で動いている人間がいるんだろうか。
(あんまり想像できないなぁ)
「そう思うだろうう?アンジェリカ」
「は?」
ぼんやり考えているところに思わぬタイミング。名指しに、私は驚いてレオンを見た。
レオンの瞳は鋭く、鋭利な容貌が冴え冴えとしてる。そこで私はようやく、ようやくレオンが私に向ける冷たい違和感の正体に思い当たった。
「え!?わ、私!?私はスパイじゃないですよ!?」
「我が君!?」
「アンジェリカがスパイの訳ないだろ!?」
「レオン様!」
自分の無実を晴らすべく私は慌てて抗議する。同じようにレオン以外の全員から、間髪入れず抗議が入った。
み、みんななんて良い人たちなの。
潤む視界でみんなを感謝の思いで見つめると、レオンは困ったように両手を広げた。
「そうは言ってもね、状況証拠が全て彼女が怪しいと言ってるんだ」
「アンジェリカはオレをかばって窓から落ちたんだぞ。スパイがそんな危険な真似する訳ないだろ」
スバルが庇うように私の前に立つ。
守ると決めた人との対立。頼む、これでちょっと引いてくれ。
保身ではあるが、そう思わずにはいられない。穀潰しの第6皇子なんて笑ってはいたが、レオンはこの国で十分な力を持った権力者だ。
私は楽しい恋愛シミュレーションBLゲーム内に転生したのであって、けっして血みどろ推理ゲーム(冤罪ENDあり)に転生した訳ではない!
「でも本人も自分の口で言ったろ? 3階から落ちても死なない。もし殺すとしたら刃物を仕込んだって。まずは信用させて内に入り込みたかったんじゃないかな?」
(私のセリフを、自分の都合のいいところだけ抜き出すなーーー!!!)
思わずそう突っ込みそうになったが、冷静でいられなくなったらますますドツボにはまりそうだ。いや、はまるんじゃない。はめられる。
怒り心頭ではあるが、必死で心を落ち着かせようとしていると、アイリスが援護してくれた。
「私とアンジェリカは、共に育った姉妹も同然な存在です。昔から変なことをよく言ったりする子でしたけど、スパイなんて高度な真似、アンジェリカにできるはずもありません!」
おう、アイリス……。
権力者相手に怯まず庇ってくれてすごく嬉しい。でもちょっと傷ついた気持ちになるのはなんでかな……?
「そうは言うけれど、教室でのアンジェリカは魔法が来る方向を見てなかったんだ。けれど的確にスバルを押しのけてみせた。そして、なぜ、バイオレット・キーラインの存在を知っていた?」
「えぇ……?希少な石だけど、知ってる人は知ってるんじゃ……?」
そんなことくらいで? 私の反論に、レオンは静かに首を振る。
「私は宝石についての知識の話をしている訳ではないよ。なぜキミは、女生徒のうなじの宝石の存在を知っていた?」
それに対して、私は思わず言葉に詰まってしまう。
レオンは更に私を追い詰めるため言葉を紡ぐ。
「それに、聖女が殺害された話。あれは一部の者しか知らない情報なんだよ。一般の者は『聖女が亡くなった』ことしか知らない。王家と神殿関係者でもって情報を伏せているからね。だからこそアイリスは私の話を動揺しながら聞いていたが、キミはまるで動じてなかった。そう。まるであらかじめ知っているような様子だった」
その言葉に、私は完全に固まってしまった。
なぜ……。どうして……。そう言われてしまうと、知っていたからだと言う他にない。
(最初医務室に入った時、主役が揃うのを待ってたって言ったのは、こういう意味だったのね)
つまり最初から疑われ、発言や言動をチェックされていたのだ。
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