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不穏な自己紹介


「ックシュ!」

「あらやだ、レオン様。お風邪ですか?」

「いやいや大丈夫。誰か私の噂でもしているのかもしれないなぁ」

「レオン様、おモテになりますもんね」

「ええ? アイリスみたいに可愛い子に言われたら、まんざらでもない気持ちになるね」

「やだ、レオン様ったら。おモテになるだけあってお上手なんですね」


 いやいや、はっはっはー。

 じゃないやい。

 呑気に雑談を重ねるレオンとアイリスを、スバルはジト目で眺めている。

 医務室の扉を開けた私たちは、緊迫感のかけらもない状況に脱力した。


「我が君……」

「あ、戻ってきたね。アルにアンジェリカ。待ってたんだよ」


 てっきり倒れた女生徒を囲んで、シリアスな話しでもしているかと思っていたけれど、どうやらご丁寧に私たちの到着を待ってくれていたらしい。


 医務室は、どことなく私の高校の保健室に似ていた。

 消毒薬の独特の匂い。壁際に設置された棚には、ガラス窓越しに用途不明の薬品や箱が入っているのが見える。

 窓際の奥にベッドが一つ。そこに例の女生徒が寝かされていた。

 保険医はおらず、代わりに保険医が座る椅子にレオンが。その近くにスバルとアイリスが簡易椅子に腰掛けていた。


「アンジェリカ、教室で足止めくらったんだな。悪ぃ。 大丈夫だったか?」


 スバルが、わざわざ立ち上がって戸まで迎えにきてくれる。

 どうやらスバルには、あの不満の声は聞こえていなかったみたいだ。

 私はホッと安心する。

 教室の重苦しい空気はアルとビリーのおかげで立ち直ったのだから、事件続きのスバルにこれ以上負担をかけたくはない。

 どうやら私たちが遅れていることに気付いてはいたが、戻ることをレオンに許してもらえなかったらしい。

 本当に心配してくれていたようで、スバルだけが持つバイオレットの瞳が、私に怪我がないか真剣に観察してくる。


「スバル、大丈夫だよ。アルがちゃんと対処してくれたの。全然問題なかったわ!」


 だから心配することなんて全くないから!安心して!オールオーケーよ!

 そんな意味を込めて、力強く頷くと、何故かスバルは複雑そうな顔をして見せた。


「?」

「さて、それじゃあ主役は揃ったね。話をしようか」


 レオンが仕切り直すように柏手を打つ。パンと小君良く響いた音に、私たちの視線はレオンの元へと集中する。けれど、


「主役が揃った?」


 主役はスバルだけなのではないだろうか。それともアルにも何か大きな秘密が隠されているとか?

 首をひねる私に、レオンはクッと口の先を持ち上げた。

 アイリスと雑談してた時の笑顔じゃない。レオンの冷たい容貌が持つ印象そのままの、冷ややかな笑みにゾクリとする。


「まずはお互い自己紹介が必要だね。私はレオン・イザヤ・アレクサンド。側室の子だから今はまだ王族の姓は継いではいないけれど、それでも一応血筋的には第6皇子になる。気軽にレオンとでも呼んでほしい」


 無茶な要望をサラッと折り込み、レオンは自分の身分を明かした。

 レオンが身にまとっている軍服のようなデザインの服には、肩に王家の紋章が刻まれている。それはやんごとなき身分の者しか背負うことを許されない。


「そしてこっちは、もう自己紹介は終わってるかもしれないね。私の従者で、頼れる友人でもある。キミたちと年齢は近いかな。アルフレッド・オルフェーズだ」


 今更と思っている顔を隠しもせず、主人から紹介された手前、アルが軽く頭を下げた。

 次をどうぞと、レオンがアイリスに手で促す。


「えっと、アイリスです。どうかそのままアイリスと呼んでください。こっちはアンジェリカ。私たちは、スバルさんが召喚された時、とある方のご命令でスバルさんをサポートするよう仰せつかってここにいます。ですが私たちの主人の名を明かすのは、どうぞご容赦くださいませ」


 アイリスが深々と頭を下げる。

 とある方が一体何者なのか。それは実はわからない。サポートキャラとして主人を思い浮かべてみても、主人その人の情報だけ空っぽなのだ。

 意図的に隠されている。おそらくアイリスも同じなんだろう。主人の名前を明かさないのではなく、明かせないのだ。


(サポートキャラでも重要項目には制約がかけられてるのね。ストーリーが展開していかないと、この制約は解除できないみたい……)


 そんな中、ただ一つ優位なのは、外部からプレイしたことがある、メグミであった頃の私の知識だ。


「アンジェリカ。キミもアイリスと同じ、スバルをサポートするためにここにいるの?」


 レオンの質問に、私は内心ムッとする。

 アイリスが私のこと共々名乗った後にも関わらずこの質問。一体どういうつもりなのだろう。


「そうです。アイリスとアンジェリカは二人で一つとしてスバルをサポートします」

「ふうん、そうなのか。それじゃあ、最後にスバル、よろしく頼むよ」


 レオンは人好きのする顔で、スバルに向かってニッコリと微笑む。


「オレは……。スバル・シノノメ。ただのそこら辺にいる高校生だ。2ヶ月前にここに召喚されて、なんだか良く分からないけど、聖女の生まれ変わりだって騒がれた。オレ男なのに。聖女は本当は神殿で生活するって聞かされたけど、前の聖女が神殿で死んだらしくて、安全な場所に行った方がいいってなって、この学園に入学することになった」

「そう言えば、最初にお会いした時、校門の前でスバルさんお一人でしたよね。お付きの方はどうされたんです?危ないですよ」


 スバルの自己紹介を聞いて、アイリスが眉をひそめながら質問する。

 確かに、校門で出会ったスバルの周りには誰もいなくて、スバルはどこへ行ったら良いのかさえ分からず困っていた。


「待ち合わせの場所に来なかったんだよ。この学園の近くの宿で宿泊して、今朝騎士が一人迎えに来るって話だったのに、時間になっても全然こなくて。遅刻しそうだったから一人で来たんだ」


 騎士が任務の時間に遅れるなんて聞いたことないぞ。

 私とアイリスは思わず顔を見合わせる。


「君を護衛するはずだった騎士は、今朝方早朝に死体となって発見された。はっきり言ってしまうけれど、他殺だよ」

「はっ?!」


 全く想像外のセリフに、スバルが思わず声をあげる。


「私たちがここへ来た理由も説明するって言っただろ?理由は今話した通り。キミの護衛が殺された。異常事態だ。それで我々がここへ来たって訳さ」





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