自分の推しが攻略対象に選ばれるよう頑張ります!
レオンが筆頭になって教室から出て行く。
無茶苦茶になった教室はそのままだけど、どうしたら良いんだろう。
高貴な身分故に、レオンは意識もしてないようだ。スバルも自分の運命を知るためにレオンについて行くのだ。教室のことまで頭が回らなくて当然だ。
と言うか、レオンに抱えられた少女がやった事なんだから、誰にも責任はない。
けれど庶民が身に染み付いているので、思わずソワソワしてしまう。
チッと、誰かの舌打ちが聞こえた。
「いい身分だよな。人の日常をグチャグチャにしといて」
小さな呟きだった。
思わず振り返る。教室を荒らされ、置き去りにされている生徒たちの顔は暗い。
その視線は、一目で高貴な出自とわかるレオンではなく、スバルの背中に突き刺さっている。
スバルが悪い訳じゃないのに。
悔しくて、言い返してやりたい。
そう思った時、アルが一歩前に出て、生徒の視線から隠すようにスバルの後ろに立った。そのままレオンとアイリスについて行くよう促してから、振り返った。
「手伝いが必要か?」
全く棘のない、いっそ親しみのある口調で、アルは生徒たちに声をかけた。
その完全に予想外の反応に、不満を露わにした生徒も思わずたじろぐ。その尻込みした様子の中で、アルに負けず劣らず軽いトーンで返事をした者がいた。
「いや、大丈夫。壊れた物もないみたいだし、先生を呼んでくるよ。それより早く医務室に連れてってあげる方が重要だよな」
返事をしたのはビリー・パーカーだった。
教室に入ったばかりの、どことなく沈んだつまらなさ気な様子ではもうない。活発そうな優し気な姿がそこにはあった。
気安くヒラヒラと手を振る様子に、アルの口元も緩む。
「悪い。何かあれば、アレクサンド家に連絡をしてくれ。できる限りの保証はする」
「じょーだん。アレクサンド家なんて怖くて誰も関われないよ。いいからもう行きなよ」
アルの申し出を、そのカラッとした気質で笑いながら断る。
誰にでも爽やかで親切。やっぱりどんなルートでもビリーはビリーなのだ。
張り詰めていた空気が、アルとビリーのやりとりで一気に弛緩したものに変わる。もしかしたらアレクサンド家の名前も効いたのかもしれない。
息を潜めていたような生徒たちもそれぞれに口を開き出し、誰が先生を呼ぶか話し合いだしている。
「……もう大丈夫そうだな。アンジェリカ、医務室へ行こう」
「あ、うん!」
教室の様子から問題ないと判断したのだろう。ビリーに軽い合図を送ると、今度こそ躊躇なくアルは教室の外へ出る。
「アル……、フレッドさん」
「呼びにくいならアルでも別にかまわないが」
プレイしてる時から愛称で呼んでたから、ついついアルと呼んでしまいそうになる。
つっかえがちな私に突っ込むこともせず、アルは気軽に提案してくる。
「ええと、じゃあ、アルさん」
ありがたく提案に乗らせてもらって、なおかつ控えめに呼ぶとアルは笑った。
「別にアルと呼べばいいじゃないか。俺の主人が偉いんであって、俺自身はただの従者だ。それに俺も君のことを、アンジェリカさんなんて呼ぶ気もないな」
白い髪に赤い瞳。主人と同じように冷たく冷静に見える整った容貌。レオンと違い、アルは口を開いてもクールなままだと思ってた。
実際ゲームの中の出番は少ないものの、各エピソードに登場する時は冷静な態度が目立っていた。
けれど本物のアルは気安く笑うし、心象の悪かったスバルでも気取らせずにかばってみせる。
必要があれば、アウェイな場所でも親しげに振る舞うこともできる大人なのだ。
(私、アルのこと全然知らない……)
そう思った。
それどころか、ゲームよりも今目の前の等身大のアルの方が好きだ。
笑うアルを見つめながら、キュウンと胸が大きく高鳴る。
(私、やっぱりアルが好き……!)
だからこそ、私にはすべきことがある。スバルを守ってみせると決めた時と、同じほどの決意。
(絶対に……、絶対にレオン×アルフレッドにしてみせる! あなたの恋心、私が絶対に叶えてみせるからね!!)
いささか自分にも都合のいい決意ではあるが。
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