誤解させるつもりはなくても
スバルとアルの間に漂う不穏な空気に、私は一人胸をときめかす。
(新しいカップリング誕生の瞬間を今! 私は目撃しようとしてる!!)
さすがにここでは叫べない。代わりに私は身を固くして、ぎゅっと胸の前で両手を握った。そうでもしないとこの荒ぶるハートを抑えることができない。
しかし二人はそうは取らなかった。
「アンジェリカが怖がってるだろ!」
「怒鳴るな。これ以上怯えさせたいのか?アンジェリカ、大丈夫だぞ?」
スバルはすごみ、アルは優しく私に話しかけてくる。
喜びにひたってたのを、怯えて身を固くしていると完全に誤解されてしまっている。
もう一段階悪くなった空気に、私は慌てて誤解を解くため口を開いた。
「いい加減にしないか二人とも。張り合うのは後にして、この生徒の処遇を決めるのが先だろう?」
けれどそれよりも先に聞こえたのは、アルに私を受け止めるよう命じた声だった。
その声に、元々真っ直ぐなアルの背筋が更にピンと張る。
教室の中心に出来上がっていた生徒たちの人の輪に目を向けると、まるで花道のように自然と生徒が左右に割れた。
その中心にいたのは、アルフレッド・オルフェーズの主人である、レオン・イザヤ・アレクサンドだった。
燃えるような赤い髪と、ペリドットの緑の切れ長の瞳。距離があっても伝わってくるのは、その強烈なカリスマだ。
そしてその足元には、一人の生徒が転がっている。
「あいつがアンジェリカを風の魔法で突き落とした」
完全に気を失っている生徒を示してスバルが言う。
私は初めて生で見たレオンにドギマギしつつも、倒れている生徒に注目する。
「我が君が取り押さえたのですか?」
「いや違うんだ。私が取り押さえる前に気を失ってしまった。何をしても全く起きないから、どうしたものかと思ってるところだよ」
アルの質問にレオンは困ったように首を振る。
私は思わず身震いした。
外見だけだと冷たく見えるのに、口調が優しいから話すと良い人にしか見えなくなる。
そのギャップが最愛の推しの前で、惜しみなく発揮されている。
ついさっきまでスバルとアルのカップリングに悶えてたはずなのに、本命を目の前にすると震えが走るほど興奮してしまう。
(い、いけない、いけない。落ち着け私。また怖がってるって誤解されちゃう)
深く深呼吸を繰り返す。
そして私は以前プレイしたゲームのストーリーを思い出す。
私がスバルの代わりに窓から落ちてしまった事で展開に多少の差異が生じてしまったけれど、それでも大筋はそれほど変わってないはずだ。
「アル……じゃなくて、アルフレッドさん。私を下ろしてもらえますか?」
「腰はもう大丈夫なのか?」
頷くと、アルはそっと私を下ろしてくれた。
腰が立たなくて顔面から転んだ記憶がまだ生々しいのか、アルは私がいつ転んでも受け止められる位置にスタンバイしてくれている。
腰は、大丈夫。
問題なく立って歩けた。
そのままゆっくり倒れた生徒の元へ向かうと、他の生徒が不審な眼差しを送ってくる。
(うぅ、ただのサポートキャラが本筋にでばってくんなとでも言ってるようだわ)
倒れている生徒は女学生だ。肩甲骨が隠れる程度まで伸ばされた、手入れの行き届いた髪が、可哀想に今は床に扇状に投げ出されている。
「アンジェリカ?」
背後からスバルの不思議そうな声が聞こえる。
私はかまわず女生徒の散らばる髪を、彼女の首筋が見えるようにそっと押しのけた。
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