さらば日常よ
「なんで、なんで分かってくれないのよ〜〜〜!」
放課後、いつものマックトナルトで集合。
私はコーラ片手に冷たいプラスチックのテーブルに突っ伏した。
「あはは、あんたは酔っ払いの親父かっつーの。仕方ないじゃん。メグミが絶対受けだって好きになるキャラクターは攻めっぽいのが多いし、マイナーなのよねー」
「なんでよぉ!」
親友であり同士のサトミが、私の悲しみを笑いとばす。
切実な願いを理解してもらえずに、私はコーラを一気にすすり上げ、むせた。
「げほげほっ! なんでみんな分かってくれないの!? この『スカイ・アース〜選ばれし救世主〜』で一番最高のカップリングはレオン×アルフレッドじゃん!?」
「いやそれ絶対にマイナーじゃん。そもそもアルフレッドって、レオンの従者だよね? 攻略対象でもないじゃん」
「うっ……!」
た、確かにそれを言われると辛い。
今、私がサトミに必死に話しているのは人気絶好調のBLゲーム、『スカイ・アース〜選ばれし救世主』のことである。
ストーリーを簡単に紹介すると、主人公は異世界トリップしてきた健気な高校男子で、亡くなったばかりの聖女の力を受け継いでいることが判明する。
主人公は異世界『スカイ・アース』で学園生活を送りながら、彼の力を狙う者たちから逃れつつ、聖女死亡の謎を解いていくのが大まかな粗筋だ。
もちろんBLゲームなので、そこには攻略対象が6人程登場する。
そしてその中で私の性癖を貫いたのが、攻略対象の1人、レオン・イザヤ・アレクサンドなのだっ!
燃えるような赤い髪はツンツンとはねており、強気な面持ちはザ・攻めって感じ。
外見からして好みではあるのだが、鋭そうな顔立ちなのに意外と面倒見がよく優しげなしゃべり方のギャップが素晴らしい。
「レオンの魅力は私も分かるわよ〜」
サトミの同意に、私はうんうんと力強くうなずく。
「でもさ、私はレオン×主人公か、もしくはレオンのライバルであり幼馴染の、レオン×ハロルドもあり! そしてこのカップリングならリバもあり!」
「ええ〜〜! なんでよぉ! ハロルド受けが出来て、なんでアルフレッド受けは受け入れてくれないわけぇ?!」
「いやだってあんた、ハロルドは攻略キャラの1人だけど、アルフレッドって脇キャラだから出番もほとんどないじゃん。むしろ何でそれで萌えることが出来んのよ」
いつも通りの的確なツッコミに、思わず血の涙が流れそうになる。
「うう……っ、アルは脇キャラだけど、普通の脇キャラじゃないのよっ。現に脇キャラでフルネーム分かってる数少ない1人なんだから!」
アルフレッド・オルフェーズは、レオンに使える従者であり、護衛である。
ビジュアルも脇役とは思えないほどかっこいいのだ。
白髪の短い髪を半分後ろになでつけ、赤い瞳をしているのがたまらない。
むしろなんで脇キャラにこんな美味しい設定与えたんだと、製作者の胸ぐらつかんで問いただしたい。
性格はクールに見せているが実は照れ屋で、とあるイベントで主人公の前でレオンがアルフレッドを褒めるシーンがあるのだが、褒められた途端アルフレッドは赤くなってすぐさま退出するのであるっ!
「これもう絶対アルはレオンが好きでしょ!? あ〜、アルは主人に秘めた恋をしてるのよ。主人公とくっついてく姿を間近で見せつけられてかわいそうに」
「えぇ? それがあんたがレオンルートやりこまない理由なわけ?」
「だってアルがかわいそうじゃない」
言うと、サトミは呆れたように肩をすくめた。
「いやいやあんた、レオンルートはやってた方が良いって。レオンルートで物語の核心近くまで行くんだから」
「あー、聖女殺しの謎解き? 私恋愛脳だからな〜。そっちあんまり興味なくてさ」
「私もまだ途中だけどさ、トイッターとかで流れてくるの見ると、けっこうなどんでん返しがあって面白いみたいよ?」
残ったポテトをつまんでヒョイヒョイと口に放り込みながら、私はふと携帯を見た。
18時50分。
「あっ、やばい。今日早めに帰って来るように言われてたんだった」
「そうなの?もう出よっか」
こんな時のサトミの行動は素早い。さっとトレイを持ち上げると、ゴミ箱へ向かっていく。
「ありがとお」
飲み物で濡れたテーブルをペーパーで簡単にふいてから、私は立ち上がった。サトミはすでに出入り口の自動ドアを開けて待ってくれている。
「正面の信号赤になりそう。渡っちゃう?」
「そうだねー」
そして私は足を踏み出したんだろうか。
そこから先は、記憶がない。




