ランク昇格試験
今週は20時頃の更新が難しそうなので19時30分頃に投稿します
満が転生してから一週間が経った。
「お、ミツル! おはよう!」
「おはよう、アンジュ。一本貰えるかな?」
「おう! 毎度あり!」
ギルドへと向かう道すがら、一週間の間にすっかり顔馴染みとなった肉串屋の前を通りがかると、屋台の中からいつもの少女が身を乗り出して満に声を掛ける。
それに応え、ついでに朝食にしようかと一本注文するとアンジュは手頃なサイズにカットされた焼き立ての肉を葉物野菜で巻いて串に通し、満に差し出す。
引き換えに銅貨を三枚支払い、それを受け取ると肉の一つに齧り付いた。
「今日も依頼か? 精が出るなぁ」
「アンジュには負けるよ。早くランクも上げたいからね」
「謙遜するなって。ミツルならすぐCだのBだのに上がるよ、頑張れよ!」
「うん、ありがとう。いってきます」
「できれば野菜も一緒に摂りたい」と満が漏らした翌日には既に店頭に並んでいた野菜肉串を平らげ、皿を桶に返すとアンジュに手を振って別れる。
この一週間、満は薬草の採取依頼を主軸にこなしながら住人とも可能な限りコミュニケーションを取り、この世界についての情報を集めていた。
それによると、今満が居るのはマーレ王国の西端に位置するムール辺境領の主街にあたるらしい。
ムール辺境伯と呼ばれる貴族が治め、更に西側にて王国と国境を接するゴルゴト帝国に睨みを利かせている国防において重要な拠点。そんな街らしい。
もっとも、マーレ王国とゴルゴト帝国はこちら百年ほどに渡って友好な関係を築いているそうで、街も至って平和そのものではあるのだが。
「おはようございます、ミツルさん」
「アリサさん、おはようございます」
ギルドに着くと、こちらもすっかり顔馴染みとなった、初日からずっと満を担当している受付嬢と挨拶を交わす。
満がいつもの如く薬草の採取依頼の依頼書をカウンターに置くと、アリサはなにを思ったのか、その依頼書を脇に寄せてカウンターの内側から別の依頼書を一枚取り出した。
「これは?」
「登録から一週間と、かなり早い時期ではあるのですがミツルさんの依頼の達成率や人格、実績などを勘案した結果ランクアップをお薦めしても問題ないという判断となりましたので、Eランクへの昇格試験の斡旋をさせていただきます」
ランク昇格試験。
その名の通り実績や依頼達成率、そして対象の人格など、冒険者の「人となり」をギルドが精査し、「資格あり」と判断された者に斡旋される、次の冒険者ランクに至るための試験である。
「ゴブリンの討伐依頼、ですか」
「はい。この街から国境方面に馬車で半日ほどの場所にある村の近郊でゴブリンの群れが現れたようでして、村長が自ら早馬を飛ばして今朝持ち込まれたものです。
Eランクへの昇格試験は慣例として魔物の討伐依頼となっておりますので、この依頼を昇格試験とすることになりました」
そこで受付嬢は満が持ち込んだ薬草の採取依頼の依頼書を手に取り、カウンターに二枚を並べる。
「もちろん試験を見送り、こちらの依頼を受けていただいても結構ですし、ここで昇格試験を見送ったとしてもこの依頼は他の方に回されますし、もうミツルさんが昇格出来なくなるということはありません。では、本日はどちらにしますか?」
仮にここで試験を断ったとしても、後々満が何か不利になるということはないらしい。
もっとも、貯金の為にも一刻も早く昇格したい満にとって報酬が飛躍的に上がるという討伐依頼への参加資格をみすみす見逃すという手はない。
満は討伐依頼の方の依頼書を手に取ると、ギルドカードと共に受付嬢に差し出す。
「こっちの依頼でお願いします」
「はい、承りました。依頼の期限は三日間となります。それまでに達成報告がない場合失敗とみなされますのでご注意ください」
ギルドカードと依頼書を受け取り、アリサがにっこりと笑う。
続いて真剣な顔で注意事項を言い含めると依頼の受注手続きを済ませて書類とカードを満に返却した。
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