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初依頼〜薬草採集〜

ページが一ページ飛んでしまっていたので、飛んでいたページを挿入しました。申し訳ありませんでした。

挿入箇所は第四部分「命の軽さ」です。

ささやかな小鳥の囀りが耳に入り、心地よい微睡みの中から意識が浮上する。

締め切ったカーテンの隙間から淡い光が差し込み、床の板材を一部柔らかく照らしていた。



「んっ……!」



むくりとベッドから身体を起こし、上半身をぐぐっと伸ばす。

固いベッドで寝たからか、肩や首など身体の各所が固くなり、ぽきぽきと音を立てた。


寝床から抜け出し、のそのそと宿から提供された寝巻きから昨日の服へと着替える。

カーテンを開けて窓の向こうへ目を向けると、どうやらまだ日が上ったばかりらしい。周りの建物からまだ眠そうに目を擦ったり大欠伸をする人々が出てきて、各々の朝の用意を始めていた。



「おはようございます。外出ですか?」


「はい、お願いします」



諸々の準備を済ませ、宿の受付に向かうと、昨日のチェックインを担当した受付が既に受付に座り待機していた。

鍵を手渡し、宿泊料と昨夜のお湯代、今朝の洗顔用の水代を含めて大銅貨四枚、銅貨三枚を支払う。


満はそもそも魔法で水もお湯も自由に扱える為、わざわざ料金を払ってまで水などを用立ててもらう必要がなかったということに気付いたのは冒険者ギルドに着いてからだった。



「おはようございます」


「はい、おはようございますミツルさん。申し訳ありません、まだ調査隊が出発したばかりでして報酬はまだ渡すことが……」


「ああいえ、そうではなく、依頼を受けようかと。夕方までに戻って来れそうな依頼があれば教えていただきたいんですが」


「そうでしたか、申し訳ありません。そうですね……街中での依頼ですと街中のドブさらい、下水道のネズミ退治、工事現場の力作業などが常設されています。郊外に出る依頼になると薬草の採取などがありますね」



冒険者ギルドに着くと、満は真っ先に受付カウンターへと向かった。

依頼を受ける冒険者達でごった返すカウンターの奥では職員達が慌ただしく動き回っており、その中には昨日満の対応をした受付嬢も含まれていた。


満の番が来ると、その受付嬢がカウンターに着き対応を始める。

報酬金の催促にでも来たかと思ったか、やや表情を強張らせて頭を下げる受付嬢に慌てて頭を上げさせ事情を説明すると、受付嬢は恥ずかしそうに苦笑いを浮かべつつ満の質問に答える。



「ドブさらいにネズミ退治、工事現場の日雇い労働か……」



Fランクの最下級冒険者に許された一日で済む依頼としては妥当なラインなのだろうが、どれも拘束時間が長くなる上に依頼書の報酬欄を見る限り割りに合っていない。

街中で済む依頼である以上比較的安全性な仕事ではあるのだろうが、効率を重視したい満としては安全はそれほど魅力的に映らない。



「薬草採取っていうのは?」


「その名の通り昨日ミツルさんが来られた森などに赴いて、指定された何種類かの薬草を採取して納品する依頼ですね。

最低三種類を一株ずつ納品すれば達成で、それ以上は種類と数に応じて出来高払いとなりますので、Fランクの方が受けられる依頼としては実入りがいい場合があります」



薬草採取の依頼書を確認したところ、達成報酬の欄は街での依頼よりも少額になっている。

しかし受付嬢が言うには実入りがいい「場合がある」。つまり薬草などについて知識があり、短時間で数を揃えられるような者がやれば効率良く稼げるが、そうでない者にとっては街での労働以下の収入源にしかならないという一種のギャンブルめいた依頼のようだ。



「納品するのは……月光草の蕾、止血草、ベニカブト、ゴモギ、ハクソウ花、オミモナの実……」


「どのような植物かわからないようでしたら、有料にはなりますがギルドの方で見本の写しを提供していますが?」


「いえ、大丈夫です」



どうやらこの手の知識も女神は与えてくれたらしい。

植物の名前を思い浮かべるだけでそれがどのような姿でどのような用途に使え、どこに自生するのかまでが最初から知っていたかのように脳裏に浮かんだ。

逆に効能などから必要なものを導き出すことも出来るようだ。



「では、薬草採取にします。夕方には戻りますので」


「はい、承りました。ご武運を祈ります」



それから受付嬢にギルドカードを預け依頼の受注手続きを終えると、満は道具屋で刃渡り15センチほどのナイフを一本と手提げサイズのカゴをひとつ購入し、街の門を潜る。


街道沿いに二時間程度ゆっくりと歩き、ムールの街近郊の盛りに到着すると、森のそばに一台の馬車が停められているのに気付く。

馬車の荷台にはギルドの紋章が描かれており、どうやら受付嬢が言っていた調査隊が利用しているもののようだ。


今頃調査隊員達は森の中で調査の真っ只中だろう。

素人が踏み入って現場を荒らしてしまうのは本意ではないので、少し離れた場所から森に踏み入ることにして大きく馬車を迂回した場所から森に入る。



「っと、幸先がいいな」



森に入ってすぐ、視界の端に記憶にある植物が入り込み、それを掴むと一息に引っこ抜く。

青々と色づいたギザギザの葉っぱはゴモギのものだ。

土をふるい落とし、持ち込んだカゴに入れると、近くに群生しているのに気づき、手当たり次第に収穫していく。


ゴモギはそのまま食用されたり、茶に加工したりと薬効そのものは特に無いが単純に街の食を支えているものの一つとなっており、あるだけ採って採り過ぎるということはない。


もっとも、ゴモギ自体はありふれているものなので買い取りにおける単価は今回の採集対象の中では一株銅貨一枚と最も安いのだが。



「ゴモギはこんなものかな。他も何か探さないと……」



ゴモギを二十株ほど収穫したところで群生地から離れ、他の薬草を探し始める。

依頼の達成条件は最低三種を一株ずつなので、ゴモギだけを集めていればいいというものでもない。


それから二十分ほど森を歩き回り、幾分奥に入り込んで行くと直径十メートルほどに開けた空間に行き当たる。

そこだけ整えられたように木立も存在せず、青空が覗いている。



「もしかして……」



空が見えているという事実に、一つの薬草の存在が頭を過ぎり広場に足を踏み入れる。

日の入りが良好そうな広場の中心部で膝を突き、地面の草花を指先で避けながら探していると、小指ほどの大きさの花が一輪、白い蕾をつけて生えていた。

今回の依頼でひとつあたり銅貨五枚と最も単価の高い、月光草だ。

潰してしまわないように慎重に小指の爪ほどの蕾を刈り取り、土魔法で作り出したコップのような器に入れてからその器ごとカゴに入れる。



「ここと、あとそこもか」



よく見ると、満の体の周辺にもいくつも同じものが生えているのが確認できる。

思わぬ幸運に心を躍らせながら、満は収穫作業に没頭していくのだった。



「うん、こんなものかな」



ゴモギ二十三株、月光草の蕾十個、止血草十株、ベニカブトの葉を十枚。

三時間程度かけて森を探索し、収集した本日の成果だった。


各単価が、ゴモギ銅貨一枚、月光草銅貨五枚、止血草銅貨二枚、ベニカブト銅貨三枚となっているので、合計銅貨一二三枚分の買取価格となった。

換算し直すと銀貨一枚、大銅貨二枚、銅貨三枚となる。

Fランク冒険者の日雇い労働の報酬の相場が大銅貨五枚程度なので、三時間でおよそ二日分を稼いだことになる。初日の成果としては上々だろう。

ここに依頼達成の報酬も大銅貨三枚加算されるので、実質三日分の稼ぎとなるだろうか。



「まだ日は高いけど、そろそろ帰ろうかな」



ひと段落つけると、ぐぅ、と満の腹が音を立てる。

そういえば森の探索に夢中で朝から何も食べていなかった。

満自身はさほど食が太い方でもないので一食二食抜いても活動自体は可能だが、空腹になれば多少の不快感は感じる。

かといって特に弁当や携帯食糧なども持ってきていないので、空腹を満たす選択肢としては街に帰って買うか、この森でサバイバルをするかだ。


正直どちらでも構わなかったが、「どうせならちゃんと味付けされた美味しいものを食べよう」と街に戻ることに決め、帰路に就く。


足早に森を抜け、街道に戻る道すがら調査隊の馬車がまだあるか確認すると、既に街に戻ったのか轍だけを残して無くなっていた。


それから往路と同じだけの時間をかけて街に帰還し、門衛にギルドカードを提示して門を潜ると真っ直ぐ冒険者ギルドに向かう。



「あら、ミツルさん。お戻りですか?」


「はい、達成の手続きをお願いします」



ギルドに到着し受付の列に並ぶと、もはや顔馴染みとなった受付嬢が満を見て声を掛けてくるのでそちらのカウンターに移動し、カウンターの上にギルドカードと薬草をぎっしり詰めたカゴを置く。


受付嬢は量に若干驚いたのか一瞬目をぱちくり瞬かせてからカゴの中身を改め、一度奥に引っ込むと硬貨が整然と詰められた箱のようなものを持ってきた。



「ええと、報酬と買取価格合わせて銅貨換算で一五三枚となりますね。硬貨の種類はどうなさいますか?」


「とりあえず枚数が少なくなるようにお願いします」


「はい、では銀貨が一枚と大銅貨が五枚、銅貨が三枚になりますね。お確かめください」


「はい、確かに」



受付嬢が差し出す報酬を野盗から奪ってなんとなくそのまま使っている皮袋に仕舞うと、続けて受付嬢がカウンターの上に小袋を置く。

どうやら中身は硬貨らしく、置かれた時に僅かにちゃりんと硬質な音を立てた。



「それと、野盗の死亡確認が取れましたのでお約束の懸賞金をお支払いします。元々の懸賞金が大銀貨五枚、慰労金として大銀貨一枚の計六枚となりました。そちらもお確かめください」



受付嬢に促され巾着袋の口を開けて中身を覗くと、確かに大振りの銀貨が六枚入れられていた。

大銀貨六枚、日本円に直して六十万円相当である。

明らかに駆け出しのFランク冒険者が持つ額としては過剰だ。



「そういえば、報告では野盗達はお金の類を一切持っていなかったとありましたが、ミツルさんがお持ちになっているのでしょうか?」



その受付嬢の言葉に、満の身体がぎしりと固まると、それを見た受付嬢は慌てた様子で「もしそうならそれで大丈夫ですので」と付け加える。



「この国では……というより他国でも懸賞金をかけられたり討伐依頼が出るような凶悪な犯罪者の所持金など財産は討伐者の総取りとなっているところが多いので、もしミツルさんの手にあるのならばそれで大丈夫です」


「そ、そうですか……。少し焦りました……」


「申し訳ありません、ご存知だとばかり……」



恐縮する受付嬢に「いえいえ」と返し、満は皮袋を懐に仕舞う。

それから最後の依頼の完了手続きということで受付嬢がカウンターから何やら台帳のようなものを取り出し書き付けると、ギルドカードが返却された。



「これにて依頼の完了手続きは終了となります。お疲れ様でした」


「はい、ありがとうございました」



カードを受け取り、受付嬢に頭を下げると受付嬢はにこりと笑って彼女も頭を下げる。


その後満はギルドを辞去し、昨日と同じ肉串の屋台で腹を満たし、宿で魔法を駆使して身体を清めると一日を終えるのだった。

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