奴隷商会
思い立ったが吉日と、満は家を出ると街の商業区へと足を向ける。
商業区の大通りを逸れ、小路に入って何度か折れ曲がりながら進むと陽当たりの少ない小路の奥に一軒、周囲と比べて少々大きめの建物が口を開けていた。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「旅のお供を見繕いに」
店に入ると、ドアに取り付けられた鳴り子がからんからんと乾いた音を立て、店の奥から一人の男性が姿を現した。
歳の頃は20代後半から30代前半といったところだろうか、仕立ての良い、しかし装飾が華美すぎない、スーツのような服を着こなした男性は満に柔らかい笑みを浮かべ一礼すると店の奥の一室に案内する。
通された部屋は、街の奥まった場所にある奴隷商館とは思えぬほど小綺麗に整えられ、部屋に置かれた数々の調度も全く嫌味っぽくなく、主人のセンスの良さを感じさせるものばかりが並べられている。
奴隷というと満の中でもマイナスのイメージが先行してしまっていたが、そう言ったものを感じさせない店の佇まいに内心驚いていると、そんな満の動揺を見透かしたのか、男は二人分の紅茶を淹れながらくっくっと小さく笑った。
「貴族のお客様もいらっしゃいますから、変な部屋には通せないでしょう?」
「それは確かに」
「それに奴隷商などという生業をしていますとどうしても悪い目で見られてしまうこともありますからね、そういったイメージを極力廃するように店を作っています」
「なるほど」
この世界において、奴隷とは日本人の多くがイメージするようなものだけではなく、一種の職業のような捉え方をする場合もある。
例えば食いつめた傭兵や冒険者、騎士などが戦闘奴隷として身を売ると、貴族などが買い上げ自身の戦力として数えられるし、若い女や男が性奴隷として身を売れば買い上げた人物の性処理をさせることができるが、そういった経緯で奴隷となった者はそれ以外の仕事には対応しなくても良いことや、購入者から一定額の俸給が支払われることなど様々な権利が保障されている。
要するに、正規のルートで職業奴隷となった人間には給料が支払われるし、戦闘奴隷が戦闘以外の仕事ーー例えば性処理や家事などーー、性奴隷が性奉仕以外の仕事ーー戦闘や家事などーーをさせられることはないということだ。
まあ、奴隷本人が希望したり主人と奴隷との間に合意がある場合はその限りではないが。
「さて、本日は旅のお供をとのことでしたが、戦闘奴隷を御所望ということでよろしいでしょうか?」
「ええと、少し説明が難しいのですが……職業奴隷ではなく、訳ありの人が欲しいというか……」
「つまり、雇用形態ではない奴隷をご所望ということですね。
専門教育や訓練などを受けていない代わりに雇用形態によって用途は縛られませんが、当商会では満足な働きをする保障はできません。それでもよろしいでしょうか?」
店主の問いに深く頷く。
雇用形態で縛られない奴隷。つまり心身になんらかの問題を抱えていてまともな働きは出来ないと判断された奴隷、もしくは犯罪を犯して奴隷に身をやつした元犯罪者が対象となる。
職業奴隷に比べて用途が限られず、諸々の経費はぐっと安く済むが、代わりに商会に奴隷の働きに責任を持ってもらえない。
「かしこまりました。私どもでお選びしましょうか?」
「えっと……見せて貰うことって出来ますか?」
「それはもちろん構いませんが……あまり見ていて気持ちの良いものではないかと存じます」
「大丈夫です。お願いします」
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