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帰還とランクアップ

翌朝、日の出と共に目覚めると村長の家で朝食を頂き、宣言通り親子の家を訪れると今度は目覚めていた父親の湿布を張り替え、包帯を巻き替える。


父親の容体は既に安定しているようで、熱も無く僅かに身体の倦怠感と傷口の痛みを訴える程度まで治癒が進んでいた。


完治までは今暫く時間を要するだろうが、期限付きの依頼を遂行している最中の満が完治まで村に滞在するわけにもいかないので娘に当座の処置のやり方を叩き込んでから村を後にする。


帰りは行きほど急ぐ必要もないので魔力強化は抑え目に、往路よりも幾分時間をかけて歩きムールの街に着いたのは村を出発して五時間後のことだった。



「おっ! 帰ってきたな」


「こんにちは。ただいま戻りました」



街の城門まで辿り着くと、転生初日に話してからなんとなく交友が続いている門衛が満に気付き声を掛けてくるので、それに一言返しつつ会釈をする。



「初めての討伐依頼、それもゴブリンの群れって聞いたから心配してたんだが、杞憂だったみたいだな! いや、猿熊兄弟を倒してしまうくらいだから驚くほどでもないか?」


「あはは、ご心配ありがとうございます。なんとか無事に帰ってこれました」


「うんうん、命あっての物種、無事に帰ってくるまでが冒険者の仕事だからな! さ、早くアンジュやギルドに顔を見せてやるといい」



そう言いながら満が提示したギルドカードを確認し、門衛は街を指差しにかっと笑う。

どうやら満の数少ない交友関係程度は既に把握済みらしい。


促されるまま街に入り、メインストリートを歩いていると、前方の見慣れた屋台からアンジュが満に向かってぶんぶんと手を振っていた。



「ミツル! 帰ってきたんだな!」


「うん、ただいま、アンジュ」


「討伐依頼だったんだって? 挨拶もなしに行くなんて冷たいじゃないか」


「ごめんごめん、思ってたより舞い上がってたみたいだ」



出発時、特に挨拶もないまま飛び出して行ったことにご立腹らしい、拗ねたような演技をするアンジュを宥めると、アンジュは「しょうがないなぁ」と笑い、串を一本満に差し出した。



「無事に帰ってきたってことはちゃんとクリアしたんだろ? 初めての討伐依頼で無事に帰ってきた記念に奢ってやるよ」


「本当に? ありがとう!」


「まったく、次からはちゃんと挨拶してけよな!」


「はは、気をつけるよ……」



初めての討伐依頼、それは駆け出しの冒険者にとって最大の難関の一つである。

それまで安全な街中での日雇い労働や比較的魔物の少ない森の中での採取依頼だけをこなしてきた新米冒険者にとっては大抵の場合昇格試験が初めての討伐依頼となる。


魔物そのものはランク相応のものとはいえ突然命のやり取りの世界に放り出されれば、魔物に敗北したり、依頼中の不慮の事故などで二度と帰らない冒険者というのも当然出てくる。


だからこそ、門衛やアンジュは満以上に初めての討伐依頼というものを特別視していたのだろう。



「ということだと思いますよ」


「なるほど」


「仲の良い人が急に居なくなれば、取り残された方は悲しいものです。たとえそれが冒険者という明日をも知れぬ人であろうと」



ギルドにて、報告手続きをしている間アリサに街での門衛やアンジュの態度について話すと、手は止めないまま、アリサは淡々と答えた。



「私もまだまだ新人の方ですけどこんな仕事ですから、帰らない冒険者の方を見送ったことは何度かあります。特別仲の良かった、友人とすら言える人も。

居なくなる時は本当に呆気なく居なくなってしまうものですから、もしもミツルさんが特別だと思う方がいるのであれば、危険な依頼の前などには顔を見せに行ったりすることをお勧めします。お相手の為にも」


「………はい」



アリサの言葉を聞きながら、なんとなくアリシアのことが頭に浮かんだ。

アリシアのギルドカードを出した時、アリサは分かりやすく動揺していた。

きっと彼女の言葉に出てきた特別な友人というのはアリシアのことなのではないだろうか。


そんなことを考えているうちに全ての手続きが終わったのか、満の前に黒から鈍色に色を変えたギルドカードが差し出された。



「こちらがEランクのギルドカードとなります。Eランクからは依頼の難度も報酬も飛躍的に上がり、それなりに希少だったり特殊なものの採集依頼、低級の魔物の討伐依頼などが受けられるようになります。

もちろん薬草採集や日雇い労働などの依頼を受けることも可能ですので、ミツルさんのペースでお仕事して頂ければと思います」


「はい」


「それとこちらが今回の依頼の報酬ですね。銀貨三枚になります」


「ありがとうございます」



アリサに差し出された、銀貨が詰められた小さな革巾着を受け取り、懐に仕舞う。


最大三日拘束で銀貨三枚、日本円で三万円相当はかなり安く見えるが、そもそもこの世界は日本と比べると物価が安く、慎ましく生活している分にはこの金額でも半月程度は生きていけるだろう。


もっとも、満の場合はセキュリティがしっかりしている代わりに少々割高となっているギルド経営の宿で生活している分この金額で半月は少々無理があるが。



ーーそろそろ引っ越しも視野に入れようかなぁーー



一週間と少々この世界で生きてみて、自衛の能力は申し分ないこともわかったし、物価もなんとなく掴めてきた。何より満自身持ち物などかなり身軽だ。

多少セキュリティがどうあれ与えられた魔法知識にかかれば鍵なしの安宿でも要塞と化すし、寝床や食事などのQOLもどうにかなる。


ーーとりあえず身動きが取りやすいうちに時間を見て移住先を考えようーー


脳内でひとまず次の目標を設定し、満は現在の宿へと足を進めるのだった。




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